インターネットって便利で面白いですよね。その場を動かず世界中の情報を知ることができるし、別世界に生きる人達と友達になることができる。私がこうして本について語ることができるのも、インターネットがあるからこそです。
でも、当たり前の話ですが、インターネットには恐ろしい部分もたくさんあります。情報の発信者も受信者も姿が見えないため、その気になれば何の責任も負うことなく人を傷つけ、貶めることができるのです。インターネットの匿名性の恐怖を描いた作品と言えばこれ、漫画や映画のノベライズ作家としても実績のある、降田天さんの「匿名交叉」です。
仕事が上手くいかない苛立ちから、人気ブロガー<ソラパパ>のブログに批判的な書き込みを繰り返す楓。娘への愛情を疑われたことが許せず、自分を批判する書き込み相手を陥れようと目論む<ソラパパ>こと棚島。やがて楓はインターネット上で昔のブログを晒され、現実世界でもストーカー被害に遭うようになり、棚島は家庭で居場所を失っていく。名前も顔も見えないはずだった二人の運命が交わる時、そこから導き出される衝撃の結末とは。
まさにイヤミス特有の恐怖を描き切ったと言える本作。インターネットで見つけた相手に鬱屈と憎悪を募らせていく経緯など、あまりに真に迫りすぎていて背筋が寒くなるほどでした。どこの誰だか知らない相手をよくここまで・・・とも思いますが、逆に、どこの誰だか知らない相手だからこそ、何のしがらみもなく憎めるのかもしれませんね。
本作の何より怖い部分は、物語の中心となる楓と棚島が決して異常者などではなく、ごくまっとうな社会人であるという点です。どちらも仕事や家庭でそれなりに疲れてはいるものの、社会的地位の高い仕事を持ち、サポートしてくれる家族もいます。客観的に見て恵まれた立場にいるはずの二人が、なぜこれほどまで精神的に追い詰められなくてはならなかったのか。その答えが知りたくて、ページをめくる手が止まりませんでした。
また、前作「女王はかえらない」でも感じたことですが、著者の降田天さんは子どもの描き方がとても巧みです。本作の場合、棚島には幼い娘・美空がいるという設定ですが、この娘と彼女を取り巻く環境の描写がリアリティたっぷり。小さな女の子の愛らしさ、唐突に我儘を言い出す憎らしさ、身内から「子どものことを考えろ」「寂しがらせて可哀想」と意見され、棚島が苛立つ場面など、つい感情移入してしまう読者も多いのではないでしょうか。
なお、「女王はかえらない」同様、本作の終盤でもどんでん返しの展開が用意されています。読了後、読み返したくなること必至ですが、私は読み終わるのが期限ぎりぎりになってしまい、内容を振り返る時間がなく悔しい思いをしました(涙)図書館派の方は、返却期限に余裕を持って読むことをオススメします。
ネットの取り扱いにはご注意を!度★★★★☆
子どもってこんな感じだよね度★★★★☆
こんな人におすすめ
・インターネットの恐ろしさを描いた作品が好きな人
・どんでん返しのあるミステリが読みたい人