はいくる

「5分で読める!背筋も凍る怖いはなし」 『このミステリーがすごい!』編集部 編

角川文庫、講談社、集英社、新潮社、岩波書店・・・・・日本には、様々な出版社が存在します。作家やジャンルと比べ、出版社を基準に読む本を選ぶという人は少ないかもしれませんが、意外に会社ごとにカラーが違って面白いですよ。図書館と違い、書店では出版社ごとに棚が分かれていることが多いため、時間をかけてぐるぐる見て回るのも楽しみの一つです。

最近、私が注目しているのは<宝島社>。「別冊宝島」を創刊し、日本のムック文化発展に多大な貢献をした会社です。最近では、「このミステリーがすごい!」大賞を創設した出版社と言えば、ぴんと来る方も多いのではないでしょうか。私は宝島社が出版するショートショート集が大好きで、新刊情報をまめにチェックしています。先日読んだショートショート集も、期待通りの面白さでした。「このミステリーがすごい!」編集部による『5分で読める!背筋も凍る怖いはなし』です。

 

こんな人におすすめ

短時間で読めるホラー小説集が読みたい人

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通夜の帰り道で交わされる会話の意外な顛末、愛する猫に負い目を感じる男の末路、亡妻の魂が宿った人形と暮らす夫、とあるジンクスを心の支えにする女の恋模様、幸福一杯の恋人達を待つ残酷な運命、繰り返し届く謎の贈り物の恐ろしい真相・・・・・名手達が贈る、恐怖と狂気に満ちた二十四の物語

 

なんてバラエティ豊かな執筆陣!中山七里さんや真梨幸子さんのようなミステリーの名手をはじめ、化物ホラーに定評がある澤村伊智さん、医療問題に造詣の深い海堂尊さん、都市伝説系怪談の第一人者である平山夢明さん等々、名前を見るだけでわくわくしてくるような面子が揃っています。以下、私が特に気に入った話をご紹介します。

 

「我が愛しきマンチカン 中山七里」・・・妻亡き後、孤独な余生を送っていた主人公の新たな生き甲斐、それは一目惚れしたマンチカン達だ。実は主人公は昔、赴任していた東南アジアで猫をよく食べていたことがある。その罪滅ぼしも込め、猫達に献身的に尽くす日々。だが、徐々に主人公の体に異変が起こり始め・・・・・

まさか食べた猫達の怨霊に仕返しされるの?と思ったら、主人公を襲うのは新型コロナ。この二つの要素がどう結びつくかと言うと・・・あ、そういうこと(汗)主人公は現地の食文化に従っただけだし、罪悪感を感じる必要ないんですけどね。このご時世、決して絵空事ではないラストシーンに戦慄です。

 

「棘髪 林由美子」・・・幼い息子を遺し、事故で急逝した妻を偲ぶ主人公。だが、妻の魂は、市松人形に宿って還ってきた。戸惑いつつも再会を喜び、再び共に暮らし始める家族。だが、人形と人間という歪な関係は、やがて不協和音を奏で始め・・・

なんらかの形で死者が舞い戻って来るというのは、ホラーの定番シチュエーション。前半、主人公が妻の助言を得ながら家事と育児に奮闘するほのぼのした様子から、段々とすれ違っていく流れに緊迫感があります。でも実際、人間と人形が暮らすって無理があるよな。孤独と未練から暴走していく妻は哀れだけど、ラストのあれは一体・・・?

 

「君島君 澤村伊智」・・・小学生の昌輝に任された役目は、体が弱くて登校できない同級生・君島君の家にプリントを届けること。だが、君島君の家はやたら不気味な上、届ける際には不可解なルールまで課され、昌輝は怖くて仕方がない。ある日、ついに昌輝は、「誰にも言ってはいけない」というルールを破り、一部始終を母親に打ち明けてしまい・・・

いいですねー、この意味不明な感じ!君島君とは一体何なのか、課せられたルールに何の意味があるのか、一切分からない陰気な感じがJホラー好きの心をくすぐります。この手のホラーの場合、ルールを破ったペナルティがやたら重いというのもお約束。真面目に役目を果たしていた昌輝の末路が心配です。

 

「首化粧 乾緑郎」・・・籠城戦の最中、お稲は討たれた若武者の首を修復してやる。戦とはいえ、若くして死んだ彼が哀れで仕方がない。つい首に向かって労わりの言葉をかけるお稲だが、戦火はすぐそこまで迫ってきていた。やがて戦況は悪化し、女子供だけでも城を棄てて逃げろという命令が下り・・・・・

首化粧とは、首実検(恩賞を決めるため討った敵将の首を検分すること)の前に首を綺麗に修復することだそうです。この風習や戦場という状況のせいで重苦しい雰囲気が漂っていますが、後味は悪くありませんでした。きっとこの若武者は、優しく労わってくれたお稲に感謝していたんでしょうね。霊魂が本当にあるなら、こういう存在で在ってほしいです。

 

「メイクルーム シークエンスはやとも」・・・ヘアメイクが語る、かつて同業者が体験した怖い話。ある日、うっかり予定と違うスタジオに入ってしまった彼女は、そこで不気味な物音を聞く。仰天した彼女が見たもの、それは全身血まみれの人影で・・・・・

「誰それから聞いた話なんですけどね・・・」という、怪談話の王道をいくホラーでした。ちょっと意外なのは、スタンダードな怪談と思いきや、ヒト怖系のオチが待っているところでしょうか。とはいえ、こんなもの見ちゃったら、冷静に振る舞えなくても無理ないよなぁ。私なら確実に腰を抜かします。

 

「三霊山拉致監禁強姦殺人事件 岡崎琢磨」・・・交際中の彼女から妊娠を告げられ、戸惑う駿。だが、親友や母から祝福と励ましの言葉をもらい、徐々に幸福を感じ始める。彼女と気持ちを確かめ合い、幸せを噛み締める二人。そこで駿は、ある場所に行こうと提案し・・・

ストーリーはどこまでも希望に満ち満ちていて、題名にあるような陰惨な事件など起きそうにありません。どこでこの題名と繋がるの?と思っていたら・・・・・そう来たかーーー!!まさかこういう形で恐怖を持って来られるとは、完全に予想外でした。幸せ一杯なラスト一行を読んだ後、題名を見直した瞬間に襲い来る絶望感が凄まじいです。

 

「折鶴 平山夢明」・・・生活苦に悩み、貧しい暮らしを送る少女。見かねたクラスメイトの少年は、ある日、彼女に新品の鉛筆をプレゼントする。その夜、少年の家を、綺麗におめかしした彼女が訪ねてきた。差し出されたのは、赤と白の折鶴で・・・・

平山夢明さんには、『東京伝説シリーズ』のような、人の狂気が匂い立つ後味最悪ホラーのイメージがありました。ところがこの話は、怖いというよりどこか切なく、悲しかったです。きっとこの女の子は、少年の優しさが嬉しかったんでしょうね。何かがほんの少し違えば、少年少女の微笑ましい初恋物語になったのかもしれないのに・・・・・

 

「ギフト 林由美子」・・・平凡な主婦である主人公宅に送りつけられてくるもの。送り主は、自殺したママ友・美幸となっている。そんなはずない。死んだ美幸が、一体どうして。混乱する主人公をよそに、贈り物はどんどん届き続け・・・・・

この主人公が、悪気のない風を装いつつ、ママ友を追い詰め苦しめていたということは早い段階で分かります。最終的に自らの愚行の報いを受ける羽目になるのですが、それでも因果応報!ざまあみろ!とならないのは、子どもまで巻き込まれているからでしょうか。お子さん達の精神状態が心配で仕方ありません。

 

こういうアンソロジーの醍醐味の一つは、今まで知らなかった作家さんの作品を読むことができる点だと思います。私の場合、岡崎琢磨さんを知らなかったので、これを機に著作を読んでみたいですね。あの読後感の悪さは癖になりそうです。

 

色々な種類の怖い話が読めてとってもお得!度★★★★★

箸休め的な話もあるのでご安心を度★★★★☆

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コメント

  1. しんくん より:

    出版社にどういう特徴があるのかあまり考えたことないですが、出版社の特徴がホラーミステリーを通じて分かるとは面白そうです。
    中山七里さんと澤村伊智さん以外は知らない作家さんですが新しい作家さんが開拓する出来そうです。
    林由美子さんは聞いたことあるような気がしますが興味深いです。
    中山七里さんの人面探偵の第二弾が出たので予約しました。
    楽しみです。

    1. ライオンまる より:

      大御所クラスの作家さんは少なかったですが、今まで読んだことのなかった作家さんを知ることができました。
      こういうのは、アンソロジーならではの楽しさですね。
      こちらの図書館では、「鑑定人 氏家京太郎」が入ったので予約しました。
      早く読みたいです。

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