フィクション界隈において、私が好きなジャンルはホラー、イヤミス、サスペンス。昔からずっとそうで、周囲で片山恭一さん『世界の中心で、愛をさけぶ』が流行るのを横目に、私は五十嵐貴久さんの『リカ』を読んでいたものです。人目が気になって仕方ないお年頃だったので、あらすじを教えてと友達に言われ、口ごもったこともあったっけ。
とはいえ、ホラーやイヤミスの方が好みというだけで、決して恋愛小説を避けているわけではありません。有川浩さんの『植物図鑑』、辻村深月さん『傲慢と善良』、山田詠美さん『放課後の音符(キイノート)』等々、夢中になった恋愛小説もたくさんあります。中でもこれは、今でも定期的に読み返すほどお気に入りの一冊です。恩田陸さんの『ライオンハート』です。
こんな人におすすめ
SF要素のあるラブストーリーに興味がある人
いつかまたお会いしましょう。私のライオンハート---――ロンドンの群衆の中で。シェルブールにひっそりと生える林檎の木の下で。曰くありげな人々が集うパナマの洋館で。黄金時代を統治する女王の私室で。老夫婦が静かに暮らすオックスフォードの村で。時を超え、空間を超えて、必ず巡り合うエドワードとエリザベス。決して結ばれることはないにも関わらず、彼らは互いを探し、出会い、愛し合う。たとえそれが、一瞬だけの邂逅だと分かっていても・・・・・切なくも胸に響くSFラブストーリー
今のところ、私が泣いた唯一の恋愛小説です。何度生まれ変わっても必ず出会い、愛し合うエドワードとエリザベス。会えるのはいつもわずかな時間だけ。すぐ離れ離れになってしまうにも関わらず、お互いを探し続ける・・・と書くと、やたら荒唐無稽な話のように思えるかもしれませんが、そこはさすがの恩田陸さん。練られた設定と美しい描写力のおかげで、ものすごく魅力的な作品に仕上がっています。絵画との絡め方も上手いため、各話のモチーフとなる絵の由来を調べたくなってしまいました。
「エアハート嬢の到着」・・・一九三二年、ロンドン。親の借金により困窮し、学問の道も絶たれたエドワードは、絶望的な気持ちで群衆の中を歩いている。そんな彼に、エリザベスという少女が話しかけてきた。彼女が誰だか分からず、戸惑うエドワードに対し、エリザベスは「私たちは今まで何度も出会ってきた」と語り・・・
本作に登場するエドワードとエリザベスは、出会う前から互いのことを知り、想っていることが多いです。ところが、珍しくこの話のエドワードは、エリザベスのことを知らず、急に話しかけてきた少女(エリザベス)にも警戒心を抱きまくります。序盤の緊迫感から衝撃の展開、そして悲しい別れ・・・という流れに勢いがあり、ハラハラし通しでした。この当時のイギリスの社会情勢や、タイトルにもあるアメリア・エアハートの人生を知ると、色々と考えてしまうかもしれません。
「春」・・・一八七一年、シェルブール。フランソワは、林檎の木の下で若い負傷兵・エドゥアールと出会う。エドゥアール曰く、ここで愛する女性と会うことができるという。彼女の名前は、エリザベト。どこの誰とも分からない彼女のことを、エドゥアールは幼い頃から繰り返し夢に見続けていたそうで・・・・・
どの時代でも、ほんの一瞬だけ出会った後、美しくも悲しい別離を経なければならないエドワードとエリザベス。中でも「春」の二人の在り様、別れ方は、もはや神々しさすら感じるレベルです。ラスト数行で、視点となっているフランソワの正体が分かる展開も、実にドラマチックで◎!モチーフとなる絵の使い方は、収録作品中、この話が一番好きでした。
「イヴァンチッツェの思い出」・・・一九〇五年、パナマ。妻と不倫し、あまつさえ殺害した男に復讐する目的で、パナマにある館を訪れた資産家・ジェフリー。復讐相手の本名がエドワード・ネイサンだということは分かっているが、恐らく偽名を使っているらしく、滞在客の中の誰が黒なのか分からない。疑心暗鬼に駆られる中、客の一人が「自分がエドワード・ネイサンだ」と名乗ってきて・・・・・
この話ではやや趣向が変わり、登場人物の中、誰がエドワードで誰がエリザベスか分からないまま物語が進んでいきます。そのため、雰囲気はちょっとしたミステリー。終盤の真相発覚から、エドワードとエリザベスの喜びに満ちた出会いまで、ドキドキしながら一気読みしてしまいました。館に訳アリっぽい人たちが集うというシチュエーション、どうしてこんなにも読者の心をかき乱すのでしょうか。
「天球のハーモニー」・・・一六〇三年、ロンドン。処女王として勇名を馳せるエリザベス一世の前に、仮面を付けた男が現れる。男はエリザベスと何度も会ったと語るが、エリザベスに覚えはない。だが、男と語り合ううち、真実が見えてきた。そしてついに、男の仮面の下の素顔が現れて・・・・・
間違いなく全登場人物中で一番有名な人が主役を務め、エドワードとエリザベスの秘密について語られます。なぜ二人は、時代を変えながら何度も巡り合い、愛し合うのか。イギリス王朝の歴史に関する用語も多く登場し、大河ロマン好きには堪らないでしょう。ただ、収録作品中で一番ファンタジー色が濃い話でもあるので、この話を面白いと思うか否かで、本作の評価が変わってきそうです。
「記憶」・・・一八五五年、オックスフォード。エドワードとエレンの夫婦は、余生を過ごすため、とある村に引っ越してくる。それ以降、エドワードは<エリザベス>という女性を何度も夢に見るようになった。どこの誰とも分からないエリザベスに、たちまち惹かれるエドワード。妻のエレンは、そんな夫に嫉妬心を募らせて・・・・・
収録作品の中で一番お気に入りの話です。ずっと切ない別れを繰り返してきたエドワードとエリザベスだからこそ、こういう二人を見ることができて良かった!最後数行の余韻が堪りません。そして、ここで出てくるエドワードは、描写からして恐らく第二話「春」に出てくるエドゥアールの祖父。こういう繋がりが分かると、読者としては嬉しくなってしまいますね。
各話の間に<プロムナード>が挟まれ、読了後にすべてが繋がる仕掛けになっています。恩田陸さんらしく、あえてすべての解説はせず想像・考察の余地を残す構成になっていますが、これはミステリーではなくSFラブストーリーなので、消化不良感はありませんでした。ただ、時系列・登場人物の関係がかなり入り組んでいるため、混乱する場合はメモするか、懇切丁寧な図解サイトが複数存在するので参考にすることをお勧めします。あと、タイトルにもなっているケイト・ブッシュ『ライオンハート』(SMAPの曲ではありません)も名曲なので、良ければ聞いてみてください。
なんて壮大かつロマンチックな世界観!度★★★★★
言葉選びが素敵すぎる度★★★★★








図書館でよく見ますが借りたことなかったです。
郷愁感のあるロマンチックなストーリーで読んでみたくなりました。
舞台が世界各国を回るところ、「ミハスの落日」に通じるものを感じますね。
名画がストーリーに絡む構成も素敵でした。
ただ、日本人はこの題名を聞くと、SMAPのヒット曲の方をイメージしてしまうかもしれませんが・・・
貫井徳郎さんのミハスの落日のイメージです。