久坂部羊

はいくる

「芥川症」 久坂部羊

創作の世界には<パスティーシュ>という用語があります。これは一言で言うと、作風の模倣のことです。似たような用語に<オマージュ>があり、実際、日本では厳密な区別はない様子。ただ、色々なパスティーシュ作品、オマージュ作品を見る限り、前者は先行する作品の要素がはっきり表れているのに対し、後者は作家が先行作品を自分なりに読み取った上で作品化するので、「え、〇〇(作品名)のオマージュなの?」とびっくりさせられることが多い気がします。

パスティーシュとして真っ先に挙がるのは、清水義範さんの作品でしょう。作家歴四十年以上ということもあって著作は多いのですが、私的イチオシは英語教科書(!)のパスティーシュ作品『永遠のジャック&ベティ』。学生時代の英語教科書を読み、登場人物達の会話に対し「なんでこんな不自然な喋り方をするんだろう?」と思ったことがある方なら、間違いなく爆笑すると思います。それからこれも、粒揃いの傑作パスティーシュ短編集でした。久坂部羊さん『芥川症』です。

 

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はいくる

「怖い患者」 久坂部羊

私は根が小心者ということもあり、体に異変を感じたらさっさと病院に行きます。「実は深刻な病気だったらどうしよう」「様子見している内に手遅れになったら・・・」等々、つい悪い想像を巡らせてしまうんです。そのため、昔から病院はけっこう馴染みのある場所でした。

一つの建物内に生と死が同時に存在する病院は、フィクションの世界においても様々なドラマの舞台とされてきました。ヒューマンストーリーなら垣谷美雨さんの『後悔病棟』、サスペンスなら海堂尊さんの『チーム・バチスタの栄光』、ホラーなら五十嵐貴久さんの『リメンバー』etcetc。いずれも病院という場所の特性を活かした名作ばかりです。先日読んだ小説も、病院とそこに関わる人々の人間模様をテーマにしていました。久坂部羊さん『怖い患者』です。

 

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