夕木春央

はいくる

「十戒」 夕木春央

創作の世界には<評価が分かれる作品>というものが存在します。ある人にとっては傑作でも、別のある人にとってはイマイチ・・・などということは、決して珍しいことではありません。違った感想を持つ読者同士が、あれこれ意見をぶつけ合うこともまた、読書の醍醐味の一つです。

では、賛否両論、評価が分かれやすいのはどんな作品でしょうか。例を挙げると、<神様が超自然的な力を使って犯人を当てる>という麻耶雄嵩さんの『神様ゲーム』、学生達があまりに残虐な殺し合いを繰り広げる高見広春さんの『バトル・ロワイアル』、解決編が存在しない恩田陸さんの『夏の名残の薔薇』等が、議論を巻き起こす傾向にあると思います。それからこの作品も、人によって評価が分かれる気がしますね。夕木春央さん『十戒』です。

 

こんな人におすすめ

クローズドサークルもののミステリーが好きな人

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はいくる

「方舟」 夕木春央

ミステリーやホラーのジャンルが好きで、<クローズド・サークル>を知らない方は、恐らくいないでしょう。単語を聞いたことがなくても、「外界と往来不可能な状況で事件が起こる様子を描いた作品のことだよ」と説明されれば、きっとピンとくると思います。嵐の孤島や吹雪の山荘、難破中の船・・・脱出困難な状況で怪事件が起き、「誰が犯人なのか」「次は自分が殺されるのか」と疑心暗鬼に駆られる登場人物達の姿は、多くのミステリーファンをハラハラドキドキさせてくれます。

ただ、現実的な目線で見てみると、クローズド・サークル作品には「なんでわざわざこんな状況で事件を起こすの?」という疑問がついて回ります。なるほど、確かに脱出困難な状況ならば、標的を逃さず仕留めることができます。その標的のことが憎い場合、より恐怖と不安を与えられるというメリットもあるでしょう。反面、外部と行き来できない分、犯人自身も逃亡できなかったり、犯行を見破られるリスクも高まったりします。よって、クローズド・サークル作品を面白くするためには、この辺りをどう上手く料理するかが重要な鍵となるわけです。でも、こんな形でクローズド・サークルを作った作家さんは、この方が最初ではないでしょうか。今回ご紹介するのは、夕木春央さん『方舟』です。

 

こんな人におすすめ

・クローズド・サークル系のミステリー小説が好きな人

・絶望感溢れるどんでん返しが読みたい人

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