はいくる

「インフルエンス」 近藤史恵

女性同士の人間関係のもつれをテーマにした小説はたくさんあります。この手のテーマの場合、大抵はドロドロの愛憎劇になる傾向が強い気がしますね。人間関係が難しいのは男性同士、男女間でも言える話ですが、女性同士の方が「陰湿」「鬱々」というイメージがあるのでしょうか。

このブログでも新津きよみさん『女友達』、辻村深月さん『盲目的な恋と友情』などを紹介してきましたが、これらは女性二人をメインに据えた作品です。では、これが女性三人なら?「三角関係」などという言葉があるくらい、複雑な人間関係の代名詞とも言える三人組。そんな女性同士のトライアングルを描いた作品を紹介します。近藤史恵さん『インフルエンス』です。

 

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一人の女性が女流作家に対し、三人の少女達の物語を語り始める。巨大団地で暮らす友梨と里子。二人は仲の良い友達同士だったが、里子が実の祖父から虐待を受けている可能性が浮かんだことでぎくしゃくし始める。やがて中学校に進学した二人を待つ数々の苦難。友梨は新しい友人・真帆と荒波を乗り越えようとするが、ある時、真帆を襲おうとした暴漢を刺してしまう。だが、事件の犯人とされたのは、疎遠になったはずの里子だった・・・もつれ合う人間関係の末、三人が見つけた真実とは。

 

団地での暮らしや中学校の荒廃ぶりなどからして、恐らく時代背景は一九七〇年代後半から一九八〇年代前半。そこから始まる女性三人の数十年に渡る物語です。近藤さんは『サクリファイスシリーズ』や『シャルロットの憂鬱』など、爽やかで心温まる作品をたくさん書いていますが、本作は一転して暗く重苦しい心理ミステリー。その陰鬱さに息が詰まりそうになりつつも、ページをめくる手が止まりませんでした。

 

マンモス団地で仲良く暮らしていた友梨と里子。ですが、里子に対する祖父の虐待がきっかけで、二人は徐々に疎遠になっていきます。その後入学した中学校は荒れており、華やかな里子は不良グループと、地味な友梨は大人しい生徒たちと行動を共にするようになりました。友梨は転校生の真帆と親しくなりますが、暴漢に襲われかけた真帆を救うため、弾みで男を刺してしまいます。事件の犯人として少年院に行ったのは、なぜか里子。やがて時が流れ、再会した友梨に里子は言います。「ジジイを殺して」と・・・・・

 

物語の中では友梨たちの小学校時代から社会人まで、何十年もの時間が流れますが、一番印象的だったのは友梨・里子・真帆の三人が初めて揃う中学時代。この世代特有の残酷さ、スクールカーストの陰湿さなどの描写がもう辛くて辛くて・・・カースト下位の生徒に対し日常的に横行するいじめなど、現実とまったく変わらぬリアルさです。中学生って、本当に人生で一番未熟で痛々しい時代ですよね。

 

そしてこの未熟さが、物語の大きなポイントとなります。体は成長しているようで、友梨も里子も真帆もまだ子ども。子どもだからこそ、あっさりと友達の身代わりとなって殺人の罪を被り、その見返りとして身内の殺人を依頼する。それを誰にも打ち明けず引き受け、実際に殺人を決行しようとし・・・幼さゆえに理性的な判断ができず、どんどん袋小路に迷い込んでいく三人の姿は、恐ろしくもあり哀れでもあります。

 

決して明るい話ではありませんが、文章が柔らかいため読みやすいですし、終盤にはビックリも仕掛けられています。ラストのとらえ方は人によって分かれるようですが、私は希望が残っていると思いたいですね。タイトル『インフルエンス』の意味がイマイチ分からないので、どなたか解釈をお願いします!

 

これは友情と呼べるのか?度★★★★☆

会わなくなってしまった友達を思い出す度★★★★☆

 

こんな人におすすめ

息苦しい心理ミステリーが読みたい人

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コメント

  1. しんくん より:

    近藤史恵さんのイヤミスが効いた作品ですね。
    サクリファイスシリーズが白近藤なら、黒近藤にあたりそうです。
    時代背景も馴染みを感じそうで共感出来そうです。
    早速予約してきました。
    インフルエンスの意味が理解出来ればいいかな~と思います。

    1. ライオンまる より:

      黒近藤の本領発揮と言える作品でした。
      あの時代の空気感を知っているなら、より感情移入できるかもしれませんね。
      タイトルの意味について何か考えるところがあれば、ぜひ聞かせてほしいです。

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