はいくる

「スイングアウト・ブラザース」 石田衣良

「恋活」「婚活」という言葉が出てきて久しいです。一昔前は、恋愛や結婚は日常生活の中で自然に行うのがベストとされていました。ですが今は、「ただ待っていたってチャンスはやって来ない」「いい恋愛や結婚は努力して掴み取るべき」という考え方も決して少なくありません。

「恋活」や「婚活」をテーマにした創作物はたくさんありますが、どちらかというと女性目線の作品が多いですよね。そんな中、男性視点による婚活小説を紹介したいと思います。直木賞受賞作家である石田衣良さん「スイングアウト・ブラザース」です。

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ロン毛がトレードマークのおたくプログラマー・矢野、内気で薄毛の信用金庫職員・小林、肥満体のジュース営業マン・堀部。大学時代の同級生三人組は、ほぼ同時期に全員彼女から振られてしまう。失意の彼らの前に現れたのは、大学時代、高嶺の花だった美紗子先輩。

エステサロンと経営者となっていた美紗子は、三人を自らの店の特待生とし、モテ男となるためのレッスンを開始する。外見だけでなく内面をも磨くため、次から次へと出される課題の内容とは?三人はレッスンをクリアし、モテ男となることができるのか!?

 

お洒落で都会的な登場人物が多い石田作品にしては珍しく、話の中心となるのは何ともあか抜けない男性三人組。「ガリガリのおたく」「気が弱い薄毛」「のんきな太っちょ」という分かりやすい冴えなさ具合なので、作中の場面を簡単にイメージすることができると思います。中心となるのはおたく気質のプログラマーですが、このキャラクター、もしかしたら作者が自分自身を投影しているのかもと思いました。

とはいえ、そこはやっぱり石田衣良ですから、自分似だろうと何だろうと登場人物を甘やかしたりしません。実際、作中で起こる騒動はリアリティたっぷり。序盤の婚活パーティーでモテない参加者が冷たい扱いを受けるシーンなんて、思わず胸が痛くなる読者も多いのではないでしょうか。

また、モテ男となるために課されるレッスンも、なかなか実践的なものが多いです。詳細はネタバレになるので控えますが、「本を読んで教養を身に付ける」「服はちゃんとサイズの合ったものを着る」等、当たり前のようで意外と忘れがちなテーマが取り上げられています。婚活講座という設定ですが、婚活以外のコミュニケーションの場でも活かせるような気がしますね。

この手の婚活小説は、一歩間違えると主人公にとことん共感できなかったりするものですが、本作は三人組の愛すべきダメ男っぷりが可愛らしく、素直に応援することができました。三人の個性も豊かなので、男性読者は「誰に共感するか」、女性読者は「誰と付き合いたいか」など、色々考えるのも楽しそうです。

石田衣良といえば、「池袋ウエストゲートパーク」のような勢いのある青春ミステリや、「4TEEN」のような瑞々しい成長もの、「娼年」のような恋愛小説が有名ですが、こういうほのぼのした作品も書けるんだと嬉しく思いました。個人的に、こういう良い意味で軽い話は好きなので、今後も書いていってほしいです。

 

モテなくても頑張ります度★★★★☆

このテクは現実でも使えそう度★★★☆☆

 

こんな人におすすめ

・婚活や恋活に興味がある人

・男性の成長物語が読みたい人

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