はいくる

「スタフ staph」 道尾秀介

「覆水盆に返らず」という言葉があります。「一度起きてしまったことは決して元に戻せないこと」の喩えで、日常生活でもよく使われることわざですね。私自身、取り返しのつかない失敗をしでかし、にっちもさっちもいかなくなって頭を抱えることがよくあります(汗)

やり直し、取り返しのきく物事がたくさんある反面、二度と元には戻せない物事があるということもまた事実。それが、今日ご紹介する本のテーマです。直木賞作家である道尾秀介さん「スタフ staph」です。

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夫と離婚後、甥っ子の面倒を見ながらランチワゴンを運営するヒロイン・夏都。ある日、彼女は別人と間違われて誘拐された挙げ句、なりゆきで中学生アイドルに力を貸す羽目になってしまう。アイドルの願いは、姉の知人の携帯電話に保存されたメールを消すこと。簡単かと思われた計画だが、徐々に不穏な空気が漂い始める・・・・トラブル続きの毎日に翻弄されるヒロインの運命や如何に!?

 

道尾秀介といえば、「向日葵の咲かない夏」「背の眼」などに代表されるダークな作品と、「カラスの親指」「カササギたちの四季」のようなユーモラスな作品がありますが、本作はどちらかというと後者寄り。ドミノ倒しのように次から次へと起こる騒動や、傍迷惑にも関わらずどこか憎めないキャラクターなど、つい笑ってしまう要素が満載です。

 

とはいえ、そこはやっぱり道尾ワールド。ただコミカルなだけで終わるわけがありません。ふとした瞬間にちらりと垣間見える登場人物たちの寂しさや、急展開の後に明かされる切ない真相など、強く胸に訴えかけてくるものがありました。それにしても道尾さん、「鬱屈したものを抱える少年少女」を書くのが相変わらず巧いなぁ。

 

また、ヒロインがランチワゴン店主ということもあり、こういった飲食業の描写も丁寧です。調理師が主役の小説はたくさんありますが、移動デリの経営者となると、数も少ないのではないでしょうか。料理の良し悪しだけでなく、ローンや出店場所の契約など、現実的な問題もしっかり織り込んであって、改めて著者の力量を感じました。

 

タイトルの「staph」とは黄色ブドウ球菌のことで、「一度毒素が生産・増殖されると、もうどんな手を使っても元には戻せない」という性質を持つそうです。登場人物たちは何を行い、その結果何が起こり、何が元に戻せなくなったのか。苦しい余韻が残る物語ですが、決して後味は悪くないように思います。道尾秀介の陰鬱な作品が苦手という方にお勧めですよ。

 

世の中、取り返しのつかないこともあるんだよ度★★★☆☆

子どもだって結構大変なんだよ度★★★★☆

 

こんな人におすすめ

・道尾秀介の明るい作品が好きな人

・飲食業の内幕に興味がある人

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