はいくる

「幸せのプチ-――町の名は琥珀」 朱川湊人

「妖精」と聞くと、どんな生き物を想像するでしょうか。羽が生えた小さな美少女の姿?尖った耳と鼻を持ちナイトキャップをかぶった姿?中国などでは、いわゆる「妖怪」も妖精と同じ扱いだそうですね。

ファンタジー作品に登場する妖精は、不思議な姿と力を持つことが多いです。でも、中にはごくありふれた姿を持ち、町に溶け込んでいる妖精もいるのかも・・・朱川湊人さん『幸せのプチ-――町の名は琥珀』には、そんな妖精が登場するんですよ。

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プラモデルに熱中する少年たちのささやかな冒険、幼馴染の仲良しコンビが巻き込まれた恋の顛末、滑り台の上で空を見上げる謎の男・・・・・騒々しいようで懐かしく温かい町・琥珀と、そこに住む白い犬の姿をした「妖精」。一九七〇年から八〇年代の東京下町を舞台に、六つの小さな奇跡を描いた連作短編集。

 

朱川湊人さんといえば、救いも希望もない「黒朱川」作品と切なくもほのぼのとした「白朱川」作品の二つがありますが、これは後者。昭和の下町らしいノスタルジックな雰囲気といい、ほんの少し悲しみを抱える優しい人達といい、読みながら癒されっぱなしでした。この手の作品を書かせたら、やはり朱川さんはピカイチですね。

 

物語の舞台となるのは、東京のどこかにある町・琥珀。住民の社交場でもある銭湯が並び、そこここの路地を野良犬が駆け抜け、パン屋や肉屋では看板娘が接客に励む・・・そんな昭和の雰囲気溢れる町には、白い犬の姿をした「妖精」が住んでいます。

 

この白い犬、空を飛んだり魔法を使ったりするわけではないものの、何年経っても姿が変わりません。そして、この犬と出会った人々は、小さな、それでいて心温まる不思議体験をするのです。決して大事件が起こるわけではないものの、犬が運ぶささやかな幸せの数々には和まされます。

 

収録作品は全部で六話。心温まる良作揃いですが、私のイチオシは幼馴染の女性二人の恋と友情を描いた「タマゴ小町とコロッケ・ジェーン」です。こういう話を読むと、朱川さんは男性なのに、どうしてこれほど女性心理を細やかに書けるのかつくづく不思議に思いますね。あと、読了後はタマゴサンドやコロッケパンが食べたくなるかもしれません。

 

ちなみに、最終話「夜に旅立つ」では、各話に出てきた登場人物たちのその後が分かります。ここで注意しておきたいのは、本作の登場人物数の多さ。時系列も前後するので、「あれ、これは誰だっけ?」と思うことがあるかもしれません。余裕があるなら、キャラクターの名前だけでも書きとめておくと、面白さがより増すと思いますよ。

 

昭和の風景がよみがえる度★★★★★

私の町にもこんな妖精がいればいいな度★★★★☆

 

こんな人におすすめ

郷愁を誘う物語が好きな人

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