はいくる

「消人屋敷の殺人」 深木章子

ミステリーの世界には、「面白いけど非現実的」なネタが多々あります。たとえばダイイングメッセージ。たとえば見立て殺人。「閉鎖空間での人間消失」もその一つです。

閉ざされた状況下で忽然と人間が消える・・・実際にはまず起こりえなさそうな設定ですが、フィクションの世界なら話は別。とはいえ、非現実的なネタである以上、理由やトリックにそれなりの説得力を持たせなければ、読者は白けるばかりです。最近読んだ作品は、なかなか練られた佳作でしたよ。深木章子さん『消人屋敷の殺人』です。

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かつて一族の人間二十数人が忽然と消えたという曰くのある「消人屋敷」。時は流れ、その屋敷で再び一人の女性が姿を消す。三カ月後、差出人不明の招待状により、五人の人間が屋敷に集まった。襲い来る大嵐、土砂崩れにより閉ざされた屋敷、切断された電話線、関係者たちの目の前で消えた家政婦・・・・・五人はこの夜を生き残り、無事に屋敷を出ることができるのか。深木章子が贈る、驚愕必死の本格ミステリー。

 

もうタイトルからして本格ミステリーファンの心をくすぐりまくる本作。「断崖絶壁に建つ屋敷」「語り継がれる不可思議な伝説」「土砂崩れで孤立した空間」などなど、クローズドサークル好きなら見逃せない要素がてんこ盛りです。こういう王道をいく推理小説って、最近は意外と少ない気がするので嬉しいですね。

 

舞台となるのは、過去に多くの人間が姿を消したという伝説から「消人屋敷」と呼ばれる家。現在、屋敷には人気覆面作家・黒碕冬華が住んでおり、最近、そこを訪ねた女性編集者が姿を消すという事件が起きたばかりです。数カ月後、謎の招待状により関係者五人が屋敷を訪れますが、大嵐と土砂崩れ、電話線の切断などで外界との連絡はシャットダウン。そんな状況下で、屋敷の家政婦が忽然と消えてしまいます。

 

ミステリーではよくあるシチュエーションですが、面白いのは、屋敷が孤立した原因は嵐と土砂崩れという「偶然の産物」であるということ。つまり、こういう状況になることは犯人にすら事前に予測できなかったのです。なぜ犯人は、自然災害という偶然を利用して犯行を行うのか。なぜ電話線を切断するなどという、関係者たちの警戒心を高める行動を取ったのか。古今東西のミステリーでお約束の設定に解釈を付けるという試みは、すごくユニークでした。

 

ユニークといえば、主要登場人物の中に「覆面作家」がいる点もそうですね。作中に登場するのは、二人の作家の合同ペンネームだということのみ公表されている作家・黒碕冬華。背景・正体が一切不明、消人屋敷に引きこもって暮らすこの人物がいるせいで、物語の謎めいた雰囲気が一層深まります。また、黒碕冬華や編集者たちを通し、現代出版業の闇が描かれているところも印象的でした。他の作家さんの著作にもあるけど、こんなにダーティなのか、日本の出版業界・・・・・

 

設定がそうであるように、トリック自体も非常にオーソドックス。ミステリーに慣れた読者なら、たぶん読む途中で違和感を覚えるでしょうし、その違和感は恐らく正しいです。だからといってチープさを感じさせないのは、深木さんの相変わらず丁寧な文章ゆえでしょうか。古き良き時代から続く、正統派の本格「館」小説を堪能できますよ。

 

何か変・・・と思っていたけど騙された!!度★★★★☆

静かな環境でじっくり読みたい度★★★★★

 

こんな人におすすめ

「嵐の山荘」もののミステリー小説が読みたい人

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