はいくる

「さよなら神様」 麻耶雄嵩

「苦しい時の神頼み」「触らぬ神に祟りなし」「捨てる神あれば拾う神あり」ぱっと思いつくだけで、神様にまつわることわざはたくさんあります。日本は八百万の神様が存在する国。身近なところに神様がいるのは、何も故事成語に限った話ではありません。

もしすぐ近くに神様がいて救いの手を差し伸べてくれたら・・・?そんな空想をしたことがある人って結構多いのではないでしょうか。でも、少なくともミステリーの世界においては、神様がさっさと犯人を見破ってしまうと物語が成立しませんよね。ですが、そんな「反則技」とも言える手に挑戦した作品があるんです。破天荒で癖のある作風ながら、その独特の世界観が根強い支持を得る麻耶雄嵩さん『さよなら神様』です。

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「犯人は-――だよ」人望ある教師が容疑者となった殺人事件、罪のない犬まで犠牲となった老婦人殺し、事故と思われていた小学生の溺死、学校のマドンナの撲殺事件・・・仲間たちとともに少年探偵団を結成する小学生・桑町淳の周囲で起こる死の連鎖。真相を探ろうとする淳に、クラスメイトの鈴木は次々と真犯人の名を告げる。「神様」である鈴木の言葉に間違いはない。とはいえ、言われっぱなしでは少年探偵団の名折れとばかりに淳たちは推理を繰り広げるが・・・・・読者の予想の斜め上を行く、衝撃的な連作ミステリ短編集。

 

各話の一行目で真犯人の名前が告げられるという、ある意味で読者に喧嘩を売っているとも思える本作。作品の冒頭で犯人が分かるというと、刑事コロンボのような「倒叙もの」が思い浮かびますが、本作で真相を知ってしまうのは読者ではなく主人公の小学生・桑町淳。しかもその理由は、「暇潰しで人間に化けて小学生生活を送っている神様・鈴木に教えてもらったから」というもの。とはいえ、鈴木が教えてくれるのは犯人の名前のみであり、それだけでは何が何だか分からないので、桑町は仲間たちと謎解きに乗り出す・・・というのが全エピソードに共通する設定です。

 

かなりぶっ飛んだ設定ですが(実際にぶっ飛んでもいるのですが)、各事件の謎解きそのものは論理的です。ミステリーの基本である2W1H(Why【なぜ】Who【誰が】How【どのように】)がきっちり押さえられたオーソドックスなトリックは、正統派ミステリーファンでも納得せざるをえないでしょう。どの話も平均以上の完成度を誇っているのですが、個人的には事件の大前提がひっくり返る第四話「バレンタイン昔語り」、最後の一行が意味深な最終話「さよなら神様」が好みでした。

 

それにしても、本作に登場する「神様」こと鈴木の性格が悪いこと悪いこと。神様ゆえ全知全能で、物事のすべてを見抜くことができるのですが、だからといって生き物を救済したりはしません。だったらいっそ放っておいてくれればいいものを、面白半分で主人公に近寄り、事件の犯人の名前だけを意味深に告げては混乱する様を楽しんで眺めているのです。その陰湿さに驚く反面、人間が右往左往する昆虫を笑って観察するのってこんな感じなのかなと思ったり・・・この「神様」鈴木のキャラクターを受け入れられるか否かで、作品に対する評価も変わってきそうです。

 

「やたらと頭が良い小学生たち」「短期間で人死にが頻発する町」等々、突っ込み所は多々ありますが、そもそも「神様が犯人を教えてくれる」という設定上、あれこれ言うのは野暮というもの。ここは開き直って、他の作家では真似できない麻耶雄嵩ワールドを楽しんでください。調べたら、本作は「講談社ミステリーランド」シリーズの『神様ゲーム』の続編らしいので、そちらも探してみようと思います。

 

神様は慈悲深いもの度☆☆☆☆☆

ラストに唖然・・・度★★★★☆

 

こんな人におすすめ

一風変わった世界観のミステリ小説が読みたい人

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