はいくる

「乱反射」 貫井徳郎

「風が吹けば桶屋が儲かる」ということわざをご存知でしょうか。ウィキペディアによると「ある事象の発生により、一見すると全く関係がないと思われる場所・物事に影響が及ぶことの喩え」とあります。大ヒットしたアメリカ映画のタイトルでもある「バタフライ・エフェクト(バタフライ効果)」も同じような意味ですね。

ほんの些細な出来事が様々な事象の原因となり、やがて予想もつかないような大事件を引き起こしてしまう。そんなことが現実に起こったら・・・もしその原因の一つが自分だったら・・・そんな想像をすると、なんだか背筋が寒くなります。そんな恐ろしい「もしも」を描いた作品がありますよ。貫井徳郎さん『乱反射』です。

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強風で倒れた街路樹の直撃を受け、ベビーカーに乗っていた二歳の男児が死んだ---――悲惨な事故と思えたこの死は、実は複数の人間達により引き起こされたものだった。自然保護活動にのめり込む主婦、飼い犬の糞を放置する老人、緊急ではないにも関わらず病院の救急外来を利用する大学生、苦手な車の運転を断りきれない女性・・・・・些細な罪とエゴの積み重なりが、取り返しのつかない悲劇を招く。息子の死の原因を求める父親が、やがて辿り着いた真実とは。

 

登場人物たちの誰にも好感が持てず、同時に、誰のこともはっきり責められない作品。人の、それも無邪気な子どもの死の原因を作った人達なのに、私には彼らを声高に非難することはできませんでした。なぜなら、一人一人がやったことはどれも小さく、誰しもふと犯しかねないマナー違反ばかりだからです。

 

子どもを押し潰した街路樹は、本来ならとっくの昔に伐採されていたはずでしたが、環境問題に熱心な主婦グループによって阻止されていました。事故発生直後、子どもはまだ息がありましたが、近くの病院は救急外来が混雑していることと、外科医の不在を理由に断ります。実はこの混雑は、虚弱体質の大学生が女友達に「体調不良の時は救急外来に行けば早く診てもらえる」と喋ったことがきっかけで引き起こされたものでした。仕方なく子どもは別の病院に運ばれますが、途中の道は、運転を断りきれない弱気な女性のせいで大渋滞・・・これ以外にも、様々な人たちの些細な罪により、本来なら助かったかもしれない、そもそも起こらなかったかもしれない子どもの死が起こるのです。

 

犠牲となった子どもの父親が原因究明のため奔走する姿は痛々しく、胸が詰まるようでした。その一方で、原因を作った人々にも、ほんの少しながら理解と共感ができてしまうのです。なぜなら、彼らは決して極悪人ではなく、どこにでもいる普通の人々だから。私に彼らを非難することができるのか。歩きスマホに自転車での歩道走行、ゴミの分別の不徹底・・・そんな違反を、絶対に生涯一度も犯さないと言い切ることができるのか。著者の丁寧かつ切れ味鋭い文章が、そう突き付けてくるように感じられました。

 

なお、本作は「-44章」から始まり、一章ごとにカウントアップされていく形式です。通常、第一章から始まるはずの小説が、なぜマイナスからのスタートなのか。そこにも貫井徳郎さんらしい、綿密な仕掛けが施されています。お読みになる際は、ぜひそこにも注目してみてくださいね。

 

こいつらは全員犯罪者だ!度★☆☆☆☆

人の振り見て我が振り直せ度★★★★☆

 

こんな人におすすめ

負の連鎖を描いた群像劇に興味がある人

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コメント

  1. さとやん より:

    『慟哭』で貫井さんを知り、次に手に取った作品がこれでした。
    誰もが一度は犯したことがあるであろう小さな小さなマナー違反の連鎖が一人の子供の命を奪う・・・
    凄く恐ろしい気分にさせられました。。。

    1. ライオンまる より:

      殺人鬼が出てくるわけではないにもかかわらず、これほど恐ろしい思いをさせられるとは思いませんでした。
      キャラクターのほぼ全員が不愉快な人物にもかかわらず、「自分は絶対にこういう真似をしない」とは言い切れないんですよね。
      「慟哭」とは別の意味で衝撃度の高い作品です。

  2. しんくん より:

    小さな悪意とマナー違反の積み重ねが思わぬところで返ってくる。
    題名、乱反射の意味が重くのしかかった作品でした。
    不愉快な人物、1人よがりの思い上がりなど日常の人間関係を戒めた作品でもあったと思います。
    日常から霊的でない物理的なホラーを感じました。
    久しぶりに貫井徳郎さんの作品を読みたくなりました。

    1. ライオンまる より:

      読み終わってから考えると、タイトルの意味がなんとも深いですよね。
      不愉快な人物ばかりだけど、悪人かと聞かれるとそうも言いきれない・・・日常に潜むエゴが上手く表現されていたと思います。
      今、ちょうど貫井徳郎さんブームが私の中で再燃しているので、また読み返したくなりました。

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