はいくる

「宮辻薬東宮」 宮部みゆき、辻村深月、薬丸岳、東山彰良、宮内悠介

本屋や図書館でうろうろしていると、「アンソロジー」という本を見かけることがよくあります。「アンソロジー」とは、複数の作家による短編作品などを収めた出版物のこと。現代的な名前で呼ばれていますが、万葉集や古今和歌集、新約聖書などもアンソロジーに当たります。

複数の作家の作品が収録されるという形式上、内容の質にばらつきが見られるアンソロジー。たとえ話のレベル自体は高くても、「この設定は苦手」などいうこともあり、大満足の作品を見つけることは難しいです。ですが、最近読んだアンソロジーはレベルが高かったですよ。当代の人気作家が一堂に会したアンソロジー『宮辻薬東宮』です。

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なぜか実物と写真に違いが表れる家、支配的な母親に悩まされる娘を待つ奇妙な運命、恋人を信じる女が指輪に託した願い、スマホ欲しさに愚行に走る少年が迎えた恐怖の結末、零細企業で働くSEが激務の果てに見つけたもの・・・・怖くて不思議で面白い。大人気作家五人が贈るホラーミステリー・アンソロジー

 

タイトルは宮部みゆき、辻村深月、薬丸岳、東山彰良、宮内悠介の頭文字一字を取って付けられたもの。作者名を見ただけでわくわくしてくる執筆陣ですね。一番手の書き手である宮部さんの作品を二番手の辻村さんが読み、そうして書かれた作品を三番手の薬丸さんが読み・・・というリレー方式の執筆スタイルもなかなかユニークです。

 

「人・で・なし  宮部みゆき」・・・母親が当てた高額宝くじを使い、マイホームを得た主人公一家。ところが、新居で写真を撮ると、なぜか一部が消えたり、実際には存在しない調度品が写ったりする。さらに、長女が家に対して放った「趣味が悪い」の一言をきっかけに、家人たちは体調不良に悩まされ始め・・・・・

トップバッターは恐らく執筆陣の中でも一番の大御所の宮部さん。さすがの安定感と牽引力により、読者をぐいぐい物語の中に引っ張り込みます。現実と違うものが写真に写る家。それだけでも結構怖いのですが、本当に怖いのは終盤。家の怪異が一通り語られた後に待つ真の恐怖に慄然とさせられました。読み返してみると、前半にちゃんと伏線が張ってあるんだよなぁ・・・さすがに巧い!!

 

「ママ・はは  辻村深月」・・・自分を絶対に正しいと信じる母親に振り回されてきた亜美。長年溜まっていた鬱憤が、成人式の着物を巡る一件でついに爆発する。それを機に実家と距離を置くようになった亜美だが、ある時から、成人式の写真が変化していき・・・

いわゆる「毒親」の描き方にリアリティがあり、亜美の悩みが我が事のように感じられました。決して悪気があるわけではなく、「真面目教」と言われるほどの頑なさで娘にマイルールを押し付ける母親。母に感謝しなければと思いつつ、鬱屈したものを溜めこんでいく娘。そんな母娘の運命、ラストに亜美が放つ一言は鳥肌ものです。個人的にはこの話が一番好みでした。

 

「わたし・わたし  薬丸岳」・・・振り込み詐欺への関与を告白した恋人が逮捕され、動揺するまま警察署にやって来た「わたし」。恋人を信じたいと願う「わたし」だが、次々と残酷な真実が明らかになる。呆然とする「わたし」が指輪に込めた想いとは。

五話の中で、これが一番オーソドックスなホラーだと思います。またこの話には、薬丸ワールドの人気キャラクター・夏目刑事が登場。普段、ヒューマン・ミステリーで大活躍する彼ですが、ホラーでは果たして・・・?この手のジャンルにはあまり手を出さないであろう薬丸さんの新境地、必見です。今後の恐怖を匂わせる不穏なラストも、いかにもジャパニーズ・ホラーっぽくて良いですね。

 

「スマホが・ほ・し・い  東山彰良」・・・高校生になるまでスマホ禁止を言い渡された春陽(チュンヤン)は、不満のあまり、物乞いが持つスマホを奪ってしまう。後日、スマホに表れた謎の地図と数字。不気味に思いながらも地図が示す場所に向かった春陽だが・・・

家、写真、指輪ときて、本作では「スマホ」という現代的なアイテムがキーワードとなります。盗んだスマホ、画面に浮かぶ正体不明の地図と数字、そこで待ち受ける悲劇等々、ホラーサスペンス映画のテーマになりそうなほどスリル満点。舞台が台湾という点も、物語の非日常感を盛り上げています。なお、本作には東山さんの著作『僕が殺した人と僕を殺した人』に関連する要素もあるそうなので、近日中にこちらも読んでみたいです。

 

「夢・を・殺す  宮内悠介」・・・小さなソフト開発の会社で技術者として働く主人公。納期に追われて疲労困憊の上、「存在しないはずのキャラクターが画面に映る」というバグにも悩まされている。追い詰められていく中、主人公は同僚の女性SEを頼りにするが・・・

ただでさえ激務と言われるSEの世界。おまけに主人公が勤めているのは下請けを行う零細企業であり、仕事はハードそのもの。心身をすり減らしていく従業員たちの描写に臨場感がありました。単純なホラーとは少し違うのですが、これはこれで十分怖い。そして極め付けはラスト。第一話の宮部さんの話に繋げる構成が面白いです。宮内さんは今まで一度も読んだことのない作家さんですが、この作品で興味が湧いてきました。

 

一話一話はどれも独立していますが、他の収録作品とリンクした部分があったり、モチーフが同じだったりするので、探してみるのも面白いと思います。この一冊が出来上がるまで二年かかったそうですが、どれだけ時間がかかってもいいので、第二段、第三弾も出してほしいものですね。楽しみにしています!!

 

目がくらむほど豪華な執筆陣!度★★★★★

題名を見て、てっきり漢方か何かの本だと思いました度★★★★☆

 

こんな人におすすめ

・ホラー短編小説が読みたい人

・アンソロジーが好きな人

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