はいくる

「レイクサイド」 東野圭吾

旅行、合宿、キャンプ・・・どことなく冒険の香りが漂う言葉です。日常を離れ、普段暮らしているのとは別の場所で寝起きする。子どもはもちろん、わくわくする大人も大勢いるでしょう。

日常から離れるというシチュエーションのせいか、旅行や合宿を扱った創作物はたくさんあります。世界的に有名な映画『13日の金曜日』はキャンプに来た若者たちと殺人鬼の攻防を描いていますし、高見広春さんの『バトル・ロワイアル』、群ようこさんの『かもめ食堂』、柴田よしきさんの『夢より短い旅の果て』などでは、登場人物たちは家を離れて旅に出ます。恋愛、ヒューマンドラマ、ホラーと、どんなジャンルにも繋げることのできる「旅」ですが、ミステリーならこれはどうでしょうか。東野圭吾さん『レイクサイド』です。

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中学受験のため、湖畔の別荘で勉強合宿を行う四組の家族。穏やかに進むと思われた合宿だが、主人公・並木の愛人が別荘に現れたことで不穏な空気が漂い始める。並木の不在中に殺された愛人、殺害を告白する妻、子ども達を動揺させないよう死体を隠そうとする大人たち。なし崩し的に愛人の死体を湖に沈める並木だが、一つの疑問が浮かび・・・・湖畔に集う人間達の欲望と、思わぬ事件の真相を描いた本格推理小説。

 

お受験小説と言えばどろどろ系の作風になりがちですが、その中でも本作は群を抜いているんじゃないでしょうか。我が子を私立中学に入れるため、倫理も正義もかなぐり捨てて奔走する大人たちの身勝手なこと。主人公をはじめ、登場人物の誰にも共感できない小説って、昨今ではなかなかない気がします。

 

中でも一番むかっ腹が立つのは主人公の並木!自分の方が愛人を作っておきながら妻の不貞を疑い、こともあろうに愛人にその調査をさせるなど言語道断。で、愛人が殺されると、ショックを受けつつも周囲の説得に応じ、殺人の隠蔽工作を行うのです。一応、「いくら受験を控えた大事な時期とはいえ、殺人という一大事を隠そうとするのはなぜか」という疑問を感じ、自分なりに調べたりするのですが・・・だからって、やったことが清算されるわけじゃないぞ!!

 

前半は合宿の開始~愛人の登場~殺害の隠蔽までの流れがスリリングに描かれ、後半からは主人公の推理が始まります。厄介事を持ち込んだ主人公を一言も責めず、「子どもにショックを与えたくない」という理由で死体の顔を潰し、湖に沈めるという暴挙に出る大人たち。彼らの真意はどこにあるのか。何か秘密があると感じながら、主人公は孤独に調査を続けます。

 

これはネタバレではないと思うので言ってしまいますが、主人公以外の大人が言う「すべては子どものため」という言葉は嘘ではありません。ただ、それは当初、主人公に対してした説明とは意味が違っていて・・・真実が分かった時、そのあまりの薄汚さにげんなりしてしまいました。「子どものため」と繰り返しつつ、実際のところ、子どもも大人も誰一人幸せになれなさそうな予感がひしひしします。

 

そういうわけで決して読後感は良くなく、登場人物に感情移入もできませんが、面白くないわけではありません。相変わらずの読みやすい文章や蟻地獄に落ちていく大人たちの心理描写、すっきり分かりやすいトリックなどのおかげで、最終ページまで中だるみすることなく一気読みすることができました。調べたところ、『レイクサイドマーダーケース』と改題されて映画化されているので、そちらも見てみたいです。

 

子への愛情は清く美しいもの度☆☆☆☆☆

彼らの行く末に光はあるのか・・・度★★★★★

 

こんな人におすすめ

人間のエゴが滲み出る推理小説が読みたい人

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コメント

  1. しんくん より:

    子供の受験勉強に過激になりすぎるストーリーは多いですがここまで過激なミステリーに当てはめた作品も珍しいですね。
    「受験勉強は受験にしか役に立たない~これは常識です」といったセリフが印象的でした。
    どう考えても共感出来ませんが作品としては面白かったです。

    1. ライオンまる より:

      受験をテーマにした小説は色々読んだものの、ミステリーという形はあまりない気がします。
      エゴ丸出しの親達にもやもやしっぱなしでしたが、いざこういう状況に直面したら、つい理性が吹っ飛んでしまうものなのでしょうか・・・
      子どもたちに捻くれた様子がないところがなんとも皮肉です。

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