はいくる

「完全無欠の名探偵」 西澤保彦

ミステリーの世界には様々な探偵が登場します。シャーロック・ホームズに代表される私立探偵や、十津川警部のように警察官が探偵役をつとめるもの、ジャーナリストに学者、弁護士に医者。中にはアルセーヌ・ルパンのように、世間一般で言う犯罪者が謎解きを行う作品まであります。

そんな様々な探偵の中に「安楽椅子探偵」と呼ばれる存在がいます。犯罪現場に出向くことなく推理を行う探偵のことで、アガサ・クリスティの『ミス・マープル』シリーズなどが有名ですね。もちろん、その他にも魅力的な安楽椅子探偵はたくさんいるのですが、今日はその中でも異色の存在が登場する作品をご紹介しましょう。西澤保彦さん『完全無欠の名探偵』です。

スポンサーリンク

遠く離れた地で就職した孫娘を案ずる大富豪により、護衛役として選ばれた青年・山吹みはる。なんと彼は「相対する人間に、それぞれが抱える過去の謎やわだかまりを、自分で自然と推理・解決させてしまう」という特殊能力の持ち主だった。亡母が死の直前に取った不審な行動、片思いの相手に対する一つの疑惑、娘が犯した過ちの真実・・・みはると向き合うだけで、記憶の底にあった謎を勝手に推理してしまう関係者たち。本人は何もしないまま謎が解かれる、ニュータイプの名探偵登場!

 

何よりもまず、探偵役(と言っていいのかは分かりませんが)のみはるのキャラクターと能力が面白い!見た目はどことなくぼんやりした冴えない大男。性格は天然かつ真面目。そんな彼と向かい合った人間は口がむずむずし、自分でも忘れていたような過去の事件を喋り出し、頭の中で勝手に真相を推理してしまうのです。この間、みはるが何をやっているかというと、ただ優しく相槌を打ち続けているだけ。自分が聞いている話に犯罪が絡んでいると、みはるが気づかないまま終了するエピソードも多々あります。古今東西、探偵はたくさんいるものの、これほど何もしないまま事件を解決に導く探偵は他にいないのではないでしょうか。

 

でも皆さん、不思議に思ったことはありませんか?「ミステリー作品の中で探偵が謎解きを始めると、なぜ都合良く次々に情報が集まるのだろう」と。刑事が探偵役のものは別として、捜査権限のない民間人が推理を行う場合、関係者と世間話を交わすのさえ一苦労のはずです。そんな素朴な疑問を「そういう超能力だから」という理屈で解決する発想力。このユニークさこそが、西澤保彦さんの持ち味と言えるでしょう。

 

といっても、本作が論理性のないトンデモ本かというと、そんなことはありません。作中で扱われる事件は、殺人に不倫、睡眠薬を使っての集団暴行など、どれもこれも生々しく残酷なものばかり。謎解きに関しても、きっかけがみはるの超能力だということ以外は、どれもしっかり納得できる構成になっています。さらに、一見無関係と思えたエピソードが収束し、最後に驚きの真相に結びつく流れといったら・・・まるで精巧なパズルを解いているような感覚を味わえました。

 

超能力やパラレルワールドが堂々と出てくる世界観、相変わらず特殊な人名のオンパレード、交わされる会話の大半は土佐弁などなど、個性的な内容に戸惑いを感じる人もいるでしょう。ですが、本作の謎解きの風変わりっぷりは、なじみにくさを押してでも読む価値があると思います。西澤作品の定番である酒盛りシーンもわんさか出てくるので、酒好きの人は一杯やりたくなってしまうかもしれませんね。お出かけ前に読む時は、ご注意を!

 

これほど何もしない探偵がいたなんて・・・度★★★★★

今後シリーズ化されないかなぁ度★★★☆☆

 

こんな人におすすめ

・伏線が張り巡らされたタイプのミステリーが好きな人

・SF風の設定に抵抗がない人

スポンサーリンク

コメント

  1. しんくん より:

    話を聞いただけで推測するのは「謎解きはディナーの後で」のようですが、SF要素の超能力とはこれも興味深いです。
    安楽椅子に座っただけで事件の真相を暴く創造力の探偵も面白いですが、酒盛りシーンもあり一息つける場面も楽しみです。

    1. ライオンまる より:

      推理一辺倒ではなく、超能力という要素が加わっている所が面白いです。
      ちなみに西澤保彦さんは、私が勝手に「飲食シーンが美味しそうな作家さんNO.1」認定しています(笑)
      特にお酒を飲む方には堪らないかもしれません。

コメントを残す

*

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください