はいくる

「鏡よ、鏡」 飛鳥井千砂

仕事に恋に友情に、懸命に努力する人の姿は素敵です。私の場合、自分が女ということもあり、女性が頑張って働いたり、恋心に胸ときめかせたりする作品に無条件に惹かれてしまいます。実際、小説だけでなく映画でも漫画でもドラマでも、その手のテーマを扱ったものは数多くあります。

あまりにたくさんありすぎて取り上げる作品に悩むほどですが、まずはこれなんてどうでしょうか。個人的に、文章の柔らかさや繊細さでは国内トップクラスなのではないかと思っている作家さん、飛鳥井千砂さん「鏡よ、鏡」です。

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いつもにこやかで愛想が良く、人と打ち解けるのも早い莉南。揺るぎない価値観と技術を持ち、流されるのを嫌う英理子。化粧品会社の美容部員として出会った、何から何まで対照的な二人。当初はぎくしゃくしていたものの、仕事中のある出来事をきっかけに親しく付き合うようになる。そんな中、社内で起きた一つの事件が、二人の人生を揺るがしていく・・・・・等身大のヒロイン二人の決断と未来を描く、少し切なくも力強い成長物語。

 

作品の舞台となるのは、女の園とも言える化粧品会社。それも美容部員が主役ということもあって、登場人物の大変は女性です。この女性だらけの空間の描き方が巧みで、女子校出身の私など「ああ、こんな感じこんな感じ」と頷きっぱなしでした。「最初は淡々とした仲だったけれど、一旦仲良くなるや否や、プライベートまでべったり」という付き合い方なんて、いかにも女性特有のものと言えるのではないでしょうか。

 

主役となるのは、正反対の個性を持つ二人の女性です。明るく愛嬌たっぷりで初対面の客にも好かれる反面、論理的な考えが苦手な莉南。理知的でスキルも高く、確固たる信念を持つものの、なかなか周りと打ち解けられない英理子。二人が出会ったばかりの頃のぎこちなさ、仲良くなってからの楽しげな様子、とある事件を境に亀裂が入っていく時の緊張感などの描写はリアリティ抜群。事が起こった時の態度も対照的な二人なので、どちらに感情移入するかで感想が変わってきそうです。

 

もう一つ面白いのは、目立つようで内面の分かりにくい美容部員業界の裏側が分かるという点です。化粧品売り場に立つ彼女たちはいつも華やかで、明るく、親しみ溢れる笑顔を振りまいています。ですが、心から笑っているかどうかは分からない。美しい美容部員たちが何を思って客に化粧品を勧め、その顔にメイクを施すのか。本作を読んで、その答えが少しだけ分かった気がしました。

 

優しい文章で現実感溢れる物語を紡ぎ出すのが飛鳥井千砂ワールドの特徴です。本作でもその特徴ははっきり表れていて、決しておとぎ話のようなハッピーエンドを迎えるわけではありません。ヒロインたちは仕事を通じて傷つき、挫折を知り、大事なものを失います。その一方、得たものも確かにあります。読了後、彼女たちの今後の幸せを祈らずにはいられない、そんな一冊でした。

 

女の友情は奥が深い度★★★☆☆

頑張って働く人の姿は美しい度★★★★☆

 

こんな人におすすめ

・リアリティある友情小説が読みたい人

・美容部員業界の裏側が見たい人

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