はいくる

「八月は冷たい城」 恩田陸

番外編、アナザーストーリー、スピンオフetc。いずれも物語の裏話や脇役にスポットライトを当てた話を指す言葉です。あの話の裏側ではどんな物語が繰り広げられていたのか。あの時現れたあの人は、その後一体どうなったのか。そんな素朴な疑問を解き明かすことができ、とても面白いですね。

当ブログでも取り上げた『七月に流れる花』には、姉妹編となる作品が存在します。『七月に~』で残されていた謎は、この本の中で完全に解き明かされました。恩田陸さん『八月は冷たい城』です。

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幼馴染の卓也にのんびりした耕介、気が強い幸正とともに古城での林間学校に参加することになった主人公・光彦。城を訪れた少年たちは、カウンターの上に首を折られた向日葵が四本並んでいるのを発見する。さらに鎌を持った何者かの出現や卓也の池への転落事故、彫像の崩落事件などが起こり、彼らは次第に疑心暗鬼にとらわれていく。この城の中にいるのは、本当に自分たちだけなのか?果たして四人は無事に林間学校を終え、城を出ることができるのか。

 

『七月に流れる花』の中で、主人公のミチルが土塀越しに少年と会話するシーンがあります。この少年の正体が、本作の主人公である光彦。林間学校は男女別に同時進行で行われており、『八月は~』では少年達の人間模様が描かれています。

 

『七月に~』では林間学校の意味自体が謎でしたが、本作ではその答えは最初から提示されており、少年たちもなぜ自分たちが古城に招待されたのか知っています。だったら謎も何もないじゃん・・・と思いきや、そうは問屋が卸さない。不気味な向日葵の装飾に始まり、立て続けに起こる不可解な事故に事件、意味深な言葉を残す「みどりおとこ」などが、少年たちを追い詰めていきます。

 

閉ざされた城内で謎めいた事件が起こるという点は『七月に~』と同じ。ですが、その雰囲気が男女で異なっている点が面白いです。そうそう、男の子って、女の子よりガサツなようで繊細、行動的なようで神経質なものなんですよね。恩田陸ワールドに登場するティーンエイジャーは、容姿と才能に恵まれた大人っぽいタイプが多いのですが、本作に登場する少年たちは良い意味で普通っぽい所も好感度大でした。

 

もう一つ注目したいのは、何ともミステリアスな「みどりおとこ」の存在。その正体は『七月に~』で判明しますが、本作ではさらに「みどりおとこ」の誕生にまつわる謎が明かされます。これがもう怖くて怖くて。中盤、光彦は城内で「みどりおとこ」と出会いますが、この場面は鳥肌必至の恐ろしさです。一応、ジュブナイル扱いされている本作ですが、これを読んだ児童がトラウマを背負わないか、余計なお世話ながら心配になってしまいました。

 

それぞれ独立した話になっているとはいえ、作中の謎解きの関係上、『七月に流れる花』→『八月は冷たい城』の順番で読むことをお薦めします。装丁や挿絵もものすごく綺麗ですし、絵として眺めるだけでも楽しいですよ。本は借りる派の私ですが、これは珍しく二冊とも購入し、本棚の一番いい位置に並べています。

 

その登場の仕方は怖すぎる度★★★★★

夏を終えて、子どもたちは大人になる度★★★★☆

 

こんな人におすすめ

少年が主役のミステリー小説を読みたい人

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コメント

  1. しんくん より:

    恩田陸さんの短編集とエッセイですね。
    同じく短編集の「図書館の海」のようなイメージですがこちらは面白そうで読み応えがありそうです。絵としても楽しめるのは良いですね。

    1. ライオンまる より:

      これは中~長編程度のボリュームの小説ですよ。
      児童書ということで文字が大きく、ページ数もさほどではありませんが、読み応えありました。
      少年少女の冒険ものが好きな人なら、きっと気に入ると思います。

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