はいくる

「風味さんのカメラ日和」 柴田よしき

写真撮影は好きですか。私自身は撮る方は決して上手ではありませんが、見るのは大好き。インターネットで美味しそうなスイーツの写真を見つけては、一人ニンマリしていることもしばしばです。

今はスマートフォンなどの普及により、一昔前よりずっと手軽に写真が撮れるようになりました。それはもちろん楽しいことだけれど、時にはしっかりとカメラを構えて写真撮影するのも面白いかもしれません。今日取り上げるのは、柴田よしきさん『風味さんのカメラ日和』。最近忘れていた、「レンズを通して物を見ることの楽しさ」を思い出せた気がします。

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Uターンしてきた故郷の地で、ひょんなことからデジカメ初心者講座に通うことになった主人公・風味。フリーカメラマン・知念大輔の講座には、一癖ありそうな受講生たちが集う。なぜか撮影した写真がことごとくピンボケしてしまう老人、優れたセンスを持ちながら寂しげな写真しか撮れない女性、自分で撮影した写真をどうしても好きになれない大学生・・・・・写真越しに浮かび上がる受講生たちの迷いを、大輔は優しく解きほぐしていく。カメラを通して描かれるコージー・ミステリ短編集。

 

柴田よしきさんと言えば、RIKOシリーズのようなハードボイルド作品や、『激流』のような胸にズシンとくるミステリを書く作家さんです。本作はそれらの作品とは雰囲気ががらりと変わり、なんともほんわかと軽やか。それでいて決して浮世離れはしておらず、現実のままならなさをしっかり描いている辺り、さすがと言わざるをえません。

 

「第一章 バッテリーの残量が不足しています」・・・幼馴染の頼みにより、受講生が集まらないカメラ講座に通うことになったヒロイン・風味。講師の知念大輔はなかなかのイケメンながら性格は天然のようで・・・・・

第一章ということで、風味の目を通し、講師の大輔や受講生たちの様子が語られます。大輔の「とりあえずバッテリーの話ばかりしまくってしまう」という描写なんて、いかにも新人講師っぽくて微笑ましいですね。風味さん、呆れているようだけど、こういうぎこちなさは誰もが一度は経験するものなんですよ。

 

「第二章 記念にならない記念写真」・・・雲野強の悩みは、撮った写真が全部ピンボケしてしまうこと。最愛の孫娘の写真までもボケてしまう上、なぜか嫁からは出入り禁止を食らってしまう。雲野の悩みを知った大輔は、ある可能性に思い至り・・・・・

本作中、私の一番のお気に入りがこのエピソード。ボケる写真と雲野家の嫁姑問題が絡み合う展開には唸らされました。愛する孫娘と会いたがるおじいちゃんの心情が切ないですが、最後の大輔と風味の会話に救われます。

 

「第三章 寂しい写真、寂しくない写真」・・・激動の人生を送って来た受講生・湯川ひなは、初心者講座に通うとは思えないほどの写真の腕前の持ち主。ところが本人には、自分の写真がひどく寂しげに思えてしまう。そんなひなに対し、大輔が示した答えとは。

最初、章のタイトルにある「寂しい写真」の意味が分かりませんでしたが、内容を読んで納得。写真に撮影者の心がそのまま表れてしまうなんて、なんだか魔法みたいですね。このエピソードで語られる風味の過去も興味深いです。

 

「第四章 1足す1は」・・・家業を継ぐため、夢見ていたカメラマンへの道を諦めた大学生・山口史郎。趣味でカメラを手にしても、撮れるのは気に入らない写真ばかり。何かの転機になるかもと思い、憧れだったカメラマン・知念大輔のカメラ講座を受講してみるが・・・

前のエピソードの中心人物がいずれも中高年だったのに対し、第四章の主役は大学生。若い分、悩み方もとんがっており、たまたま出くわした風味とも意見をぶつからせます。この時の風味の言葉がなんとも重い。柴田さんの物書きとしての矜持が込められていると思いました。

 

メインとなるのは受講生たちの人間模様ですが、カメラの豆知識や扱い方の描写も詳しく、写真撮影になじみのない読者でも楽しめると思います。どうやら一話ごとに受講生一人が中心となって物語が紡がれるようですが、まだ取り上げられていない受講生が何人もいるんですよ。それも、SNSで中傷を受ける女性や、講座内でアイドルのポジションを得たママさんたち、「大きいものが撮りたい」という不思議な希望を言うハンコ屋さんなど、面白いエピソードができあがりそうな人達ばかり。肝心の大輔のバックグラウンドもはっきりとは語られないままなので、柴田さんには一日も早く続編を書いてほしいものです。

 

バッテリーの充電は大事だね度★★★★☆

写真は撮り手の心を映し出す度★★★★★

 

こんな人におすすめ

・気軽に読めるコージー・ミステリが好きな人

・カメラを扱った小説が読みたい人

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