はいくる

「FEED」 櫛木理宇

『思えば、あれが運命の分かれ道だった』・・・小説や映画でよく登場するフレーズです。人生の明暗を分ける分岐点に遭遇する可能性は、誰にだってあります。

たった一つの分岐点を機に、行く先が天国と地獄に分かれてしまったら。今日ご紹介するのは、対照的な人生を歩むことになる少女達を描いた青春小説、櫛木理宇さん「FEED」です。

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モラルハラスメントの父親から逃れるため家出した十六歳のヒロイン・綾希。中卒の彼女に住居や就職先が見つかるはずもなく、やむをえず生活保護受給者や家出少年たちが集うシェアハウスに身を寄せる。そこで似たような境遇の少女・眞美と親しくなるが、シェアハウスオーナーの知り合いだという怪しげな女の出現により、二人に距離が生じ始める・・・少女達が迎える、悲しく残酷な結末とは。

 

プロローグの時点で、取り返しのつかない悲劇が起こることが予想できる本作。第一章で時間が遡り、なぜ悲惨な事件が起こったかをなぞっていく形式です。序盤で少女達が交わす何気ない会話や、一緒に仲良く職探しする場面が楽しげな分、読みながら胸が痛んで仕方ありませんでした。

暴力的な父親の影響で異性に対し臆病ながらも、慎重で芯の強い綾希。優しく素直だが流されやすく、依存心の強い眞美。わずかな性格の違いが、二人の少女たちの明暗を分けます。それにしても、なぜあれほどの悲劇が起こらなくてはならなかったのか・・・身も蓋もない話ですが、作中に出てくる「馬鹿は罪、弱いのも罪」という言葉が、すべてを物語っているのかもしれません。

櫛木理宇さんの作品には暴走する少年少女がよく登場しますが、加えて本作では貧困ビジネスや脱法ハウスなどの問題も取り上げられています。それらの描き方はリアルかつ過酷そのもの。ホラーのグロテスクさとは違う、現実にも起こりうる暴力シーンの描写は、思わず目を背けたくなるほどです。

ちなみにタイトルの「FEED」とは、「動物などに餌を与える」という意味とのこと。動物小屋のようだったシェアハウスで出会った少女二人のうち、片方は唯々諾々と餌を食み続けることを拒んで自立し、片方は差し出されるままに餌を飲み込んだ末に窒息する・・・少女達がどんな結末を迎えるかは、ぜひご自分の目で確かめてください。

リンチや家庭内暴力、脱法ハウス内での劣悪な生活といった暗い場面が多く、決して万人受けする作品ではないと思います。ですが、読む価値は間違いなくあります。年齢制限を設けてもおかしくない内容ですが、あえて子どもたちに読ませ、社会の落とし穴についてしっかり考えてもらいたいと思いました。

 

落とし穴はすぐ底にある度★★★★☆

目を逸らしてはいけない現実度★★★★★

 

こんな人におすすめ

・凄惨な暴力シーンに抵抗のない人

・社会問題を取り扱った作品に興味がある人

 

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