さ行

はいくる

「怖ガラセ屋サン」 澤村伊智

皆さんは、どんな都市伝説がお好きですか?国内外合わせると膨大な数の都市伝説が存在しますが、ホラー大好き人間な私は、やっぱり怪談系の都市伝説に惹かれます。口裂け女、赤マント、三本足のリカちゃん、さとるくん、ひきこさん・・・話を聞いた人のところに現れる<カシマさん>なんて、怖すぎてパニック起こしそうになったっけ。

都市伝説はインパクトがある上に想像の余地が多く、著者のオリジナリティを出しやすいからか、よく創作物のテーマになります。直木賞候補にもなった朱川湊人さんの『都市伝説セピア』や、ドラマ化された長江俊和さんの『東京二十三区女』などは、ご存知の方も多いのではないでしょうか。どの作品でも、ゾクッとさせられる都市伝説がたくさん書かれていましたが、今日ご紹介するこの本も負けていませんよ。澤村伊智さん『怖ガラセ屋サン』です。

 

こんな人におすすめ

恐怖をテーマにしたホラー短編集が読みたい人

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「わくらば追慕抄」 朱川湊人

そこそこ大きな自治体の場合、たいてい地域内に複数の図書館を持っています。多くの図書館利用者は、その中から自宅や学校、勤務先に近く、通いやすい図書館を選んで利用しているのではないでしょうか。私も自宅近くに図書館があるため、時間があるたびに通うようになって早数年。書棚の位置もすっかり頭に入り、読みたい本を探すのも楽ちんです。

ですが、たまには馴染みのない図書館に行くのも楽しいです。同じ作家さんでも、図書館によって蔵書が違うので、「あ、そういえばこの本書いたのもこの人だっけ」「この本、見かけるの久しぶりだなぁ」と驚かされることもしばしば。もちろん、図書館に取り寄せ依頼をすればどの本だろうと届くのですが、書棚の間をぶらぶらして読みたい本を見つけた時の喜びは格別ですよね。先日、普段利用しない図書館に立ち寄ってみたところ、数年ぶりにこの本を見つけたので再読しました。朱川湊人さん『わくらば追慕抄』です。

 

こんな人におすすめ

・昭和を舞台にしたノスタルジックな小説が好きな人

・超能力が出てくる小説が読みたい人

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「貴船菊の白」 柴田よしき

日本語って、とても美しい言語だと思います。もちろん、どの民族にとっても自国の言葉は誇れるものなのでしょうが、神々が出雲大社に集まる十月を<神無月>(出雲地方では神在月)と呼んだり、雪の結晶の多くが六角形をしていることから雪を<六花>と表現したりする感覚は、日本語独自のものではないでしょうか。こういう雅な表現が大好きな私は、学生時代、古文の資料集を読んで悦に入っていたものです。

美しい日本語が出てくる小説となると、夏目漱石や川端康成、梶井基次郎といった、一昔前の文豪達の作品がたくさん挙がります。そういうのは取っつきにくいからまずは現代の作家さんで・・・という場合は、江國香織さんの『すいかの匂い』、長野まゆみさんの『少年アリス』、恩田陸さんの『蛇行する川のほとり』など、日本語の涼やかさや気品高さをたっぷり堪能できますよ。それから、この作品の言葉選びもうっとりするほど魅力的でした。柴田よしきさん『貴船菊の白』です。

 

こんな人におすすめ

京都を舞台にしたサスペンス短編集が読みたい人

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「サクラ秘密基地」 朱川湊人

写真が発明されたのは、一九世紀前半のことです。この当時、産業革命によりいわゆる中産階級が多数出現し、彼らの間で肖像画が流行したことで、一気に写真の需要も高まったのだとか。そんな写真は一八四三年、長崎に入港したオランダ船により日本に入ってきました。当初は一枚撮るのにも特殊な技術や設備が必要だったようですが、インスタントカメラや携帯電話、スマートフォン等の普及により、今やその気になれば幼児だって写真を撮ることができます。

正しいやり方をすれば、被写体を完璧に一枚の紙の中に納めてしまえる写真。多かれ少なかれ描き手の解釈やモデルの注文が入る絵画と違い、写真で嘘はつけません。そういう点が、便利であると同時にどこかしら神秘的な印象を与えるのか、「写真を撮られると魂を抜かれる」「三人で写真撮影する際、真ん中に写った人間は早死にする」といった怪談まであります。今回は、そんな写真にまつわる短編集をご紹介したいと思います。朱川湊人さん『サクラ秘密基地』です。

 

こんな人におすすめ

写真をテーマにしたノスタルジック・ホラーが読みたい人

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「お葬式」 瀬川ことび

クリエイティブな世界には、複数の名義で作品を発表されている方がしばしば存在します。理由は人それぞれでしょうが、一番は、名前に付きまとうイメージや先入観を払拭するためではないでしょうか。〇〇先生は恋愛漫画とか、△△先生はロックミュージックとか、色々イメージがありますからね。

もちろん、それは小説界においても同じ。乙一さんは<中田永一><山白朝子>、藤本ひとみさんは<王領寺静>等々、複数の名義で活動されている作家さんは多いです。この作家さんも別名義で活動中だということを最近になって知りました。瀬川ことびさん『お葬式』です。

 

こんな人におすすめ

ユーモラスなホラー短編集を読みたい人

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「その扉をたたく音」 瀬尾まいこ

音楽とは文字通り<音を楽しむ>ものです。私は生憎音楽があまり得意ではありませんが、カラオケに行ったり歌を聞いたりするのは大好き。iPodにお気に入りの曲を入れ、登下校や通勤、ショッピング中などに聞くのが昔からの日課でした。

小説の世界にも、音楽をテーマにした作品がたくさんあります。それらを読んでつくづく思うのは、音楽を文章で書き表すのは至難の業だということ。単に楽曲を表現するだけでも難しい上、曲に込められた作者や奏者の感情、それを聞く側の音を楽しむ心を文字で描写するには、大変な筆力が必要となります。恩田陸さんの『蜜蜂と遠雷』や宮下奈都さんの『羊と鋼の森』などは、この点を見事にクリアした傑作でした。それからこの作品でも、音楽の楽しさが丁寧に描写されていましたよ。瀬尾まいこさん『その扉をたたく音』です。

 

こんな人におすすめ

若者の清々しい成長物語が読みたい人

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「月蝕楽園」 朱川湊人

「恋愛にルールなんてない」「恋する気持ちを咎めることは誰にもできない」。小説内において、禁じられた恋に苦しむ登場人物達がしばしば口にする台詞です。まったくもってその通りで、好きという気持ちを否定したり、命令で動かしたりすることは不可能です。

ですが、人間が社会生活を営む生き物である以上、社会に受け入れられ祝福される恋愛と、そうでない恋愛があることはどうしようもありません。中年男が少女に恋をし、破滅していく様を描いたウラジミール・ナボコフの『ロリータ』などがいい例でしょう。今回ご紹介する作品にも、決して祝福されないであろう恋愛がたくさん出てきました。朱川湊人さん『月蝕楽園』です。

 

こんな人におすすめ

許されざる愛をテーマにしたダークな短編集が読みたい人

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「夜明けのすべて」 瀬尾まいこ

学生時代、とてもスタイルの良い女性の先生がいました。背が高く、手足が長く、スーツ姿で佇む様子は舞台女優さながら。そんな見た目とは裏腹に、とある疾患を抱えていて、長時間立ったり歩いたりすることが難しいそうです。ただ、何しろ容姿が健康的かつ華やかなので、バスや電車で優先席に座っていると「年寄りに席を譲れ」と怒られることもあるとのことでした。

外から見て症状が分かる病気と分からない病気。どちらもそれぞれ大変さがあるわけですが、後者の場合、<人に辛さが伝わりにくい>という苦労があります。また、この世には、<手術で病巣を除去しました。ハイ、完治>というわけにはいかない病気がたくさんあります。この本を読んで、そういった病と向き合い、乗り越えようと努める人達について考えさせられました。瀬尾まいこさん『夜明けのすべて』です。

 

こんな人におすすめ

生き辛さを抱えた主人公が出てくるヒューマンストーリーが読みたい人

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「大きな音が聞こえるか」 坂木司

日本は島国であるため、比較的気軽にマリンスポーツを楽しむことができます。私自身、子どもの頃は親に連れられて海水浴に行ったり、海辺で花火をしたりしました。そういう時、海によってはボードを抱えたサーファーを目にすることもあり、「あれはどういうスポーツなんだろう?」と不思議に思ったものです。波打ち際でちゃぷちゃぷ遊ぶのと違い、サーフィンには技術や道具が必要ということもあって、今でもなんとなく縁遠いです。

そんな私でも、本の中でならサーフィンを楽しむことができます。サーフィンが登場する小説といえば、ぱっと思いつくのは豊田和馬さんの『キャッチ・ア・ウェーブ』や村山由佳さんの『海を抱く BAD KIDS』といったところでしょうか。大海原と戦うスポーツなだけあって、成長物語の題材としてよく取り上げられる気がします。この本でも、サーフィンをキーワードに、一回り大きくなる少年の姿が描かれていました。坂木司さん『大きな音が聞こえるか』です。

 

こんな人におすすめ

世界を見て成長していく少年の青春小説が読みたい人

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「小袖日記」 柴田よしき

「最初から最後まできっちり読み通したことはないけど、大まかなあらすじは知っている」「漫画版や実写版しか見たことない」という小説って、意外と多いです。私の場合、ぱっと思いつくのは森鷗外の『舞姫』や太宰治の『人間失格』。一昔前の文豪の作品は、文体が現代と異なっていることもあり、なんとなくとっつきにくく感じてしまいます。

そして、「昔の作品なので全部読み切るのはちょっと大変」の代表格は、紫式部の『源氏物語』ではないでしょうか。日本最古の長編小説であり、翻訳され海外でも読まれている名作ながら、何しろ全部で五十四帖から成る超大作。幸い、大和和紀さんの漫画『あさきゆめみし』や荻原規子さんの『源氏物語』など、読みやすくまとめられた作品がたくさんあり、ストーリーを知るのに不自由はしません。現代の作家が古典を再構築する場合、独自の解釈が加えられることが多く、原作との違いを比べてみたりするのも面白いです。この作品の解釈の仕方も、かなり大胆かつ斬新で面白かったですよ。柴田よしきさん『小袖日記』です。

 

こんな人におすすめ

『源氏物語』をテーマにしたほのぼのミステリーが読みたい人

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