中山七里

はいくる

「こちら空港警察」 中山七里

空港。読んで字の如く空の港であり、国内外を結ぶ要です。旅行や出張の際はお世話になることも多い場所のため、親しみを感じる人もたくさんいるでしょう。飛行機移動の予定がなくても、空港内を散策したりショップ巡りするのが好きという人も結構いるようですね。私自身、大の甘党のため、空港のお菓子コーナーをうろうろするのが大好きです。

とはいえ、悲しいかな、空港はいつも楽しく和気藹々としているわけではありません。多くの人間が出入りし、海外との往来の要所ともなる性質上、犯罪の通過点になり得てしまうのです。そんな場所だからこそ、こういう刑事にいてもらえたらどれだけ安心でしょうか。今回取り上げるのは、中山七里さん『こちら空港警察』。中山ワールドに新たな名刑事が誕生しました。

 

こんな人におすすめ

・空港にまつわる犯罪をテーマにした作品に興味がある人

・癖のある刑事キャラが好きな人

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「能面検事の死闘」 中山七里

<無敵の人>という言葉をご存知でしょうか。二〇〇八年、実業家であり論客のひろゆき氏が使い始めたインターネットスラングで、失うものが何もないため躊躇なく犯罪に走る人を指すのだそうです。つい魔が差し、一瞬、「こいつをぶん殴ってやりたい」とか「ここで暴れ回ったらすっきりするだろうな」とか思ってしまうのは誰でもあること。ただ、実際に行動してしまうと犯罪者となり、家族や仕事、築いた財産を失う可能性があります。そこで多くの人は罪を犯すことを思いとどまるわけですが、失いたくないものを持たない人間は、「もうどうにでもなっちまえ!」と破滅的な行動に走ってしまうことがあり得ます。二〇〇一年の附属池田小事件や、二〇一九年の京都アニメーション放火殺人事件等、実際に大惨事となったケースも少なくありません。

社会の耳目を集める存在なだけあって、無敵の人は多くのフィクション作品に登場します。作品の知名度として有名なのは、映画『ジョーカー』のアーサー・フレック辺りでしょうか。どん底の男が良識を手放し、ジョークとして凶悪犯罪を起こしていく様は、決して創作と言い切れないほどの迫力と臨場感がありました。さすがにアメコミのヴィランほどではありませんが、今日取り上げる作品にも、社会を混乱に陥れる無敵の人が登場します。中山七里さん『能面検事の死闘』です。

 

こんな人におすすめ

・『能面検事シリーズ』が好きな人

・<無敵の人>を扱った作品に興味がある人

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「祝祭のハングマン」 中山七里

『必殺シリーズ』『怨み屋本舗』『善悪の屑』・・・ドラマや漫画として人気を博したこれらの作品には、一つの共通項があります。それは、何らかの事情で法の裁きを逃れた、あるいは裁かれたものの罪に不釣り合いな軽い刑罰だった標的を密かに裁く存在が出てくるということ。悲しいかな、罪を犯しておきながらのうのうとのさばる人間は、いつの世にも存在します。「誰かがあいつらに罰を与えてくれたらいいのに・・・」。法的な是非はともかく、そういう感情は誰しもあるでしょう。だからこそ、例に挙げたような作品が人気を集めるのかもしれません。

ただ、仕置き人稼業を扱った作品を探してみると、漫画か、もしくは時代劇が多く、現代を舞台にした小説は少ない気がします。設定上、絵的に映える展開が多かったり、時代劇の方が復讐代行を行いやすかったりするからでしょうか。ですから、この作品を読んだ時は、なんだか新鮮な気分でした。中山七里さん『祝祭のハングマン』です。

 

こんな人におすすめ

復讐代行人が出てくる小説が読みたい人

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「特殊清掃人」 中山七里

人が誰にも看取られることなく病気・事故等で死亡することを<孤独死>といいます。死に方の性質上、場所は主に当人の自宅なのだとか。概念自体は明治時代から存在していましたが、注目されるようになったのは一九九五年の阪神淡路大震災後からだそうです。被災者が自宅等で誰にも気づかれないまま死亡する事態が問題視され、それに伴い、これまで<自然死>の一言で片づけられてきた孤独死に関心が集まるようになりました。

孤独死の多くは病気や怪我が原因であり、事件性が考慮されることはあまりありません。ですが、人一人が一生を終える。誰かに寄り添われることなく、すべてを胸に秘めたままひっそりと死ぬ。そんな場所に、思いが残らないなどということがあるでしょうか。今回取り上げるのは、孤独死から浮かび上がる思いをテーマにした小説です。中山七里さん『特殊清掃人』です。

 

こんな人におすすめ

特殊清掃業がテーマの小説に興味がある人

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「作家刑事毒島の嘲笑」 中山七里

小説の人気キャラクターをイラストで描くのは、なかなか難しい仕事です。実写化でも言えることですが、キャラクター人気が高ければ高いほど、どれだけ上手くイラスト化しても「なんか思っていたのと違う」「〇〇(キャラクター名)はこんな顔じゃない」という不満が出ることは不可避。特に挿絵がない小説の場合、読者がキャラのイメージを膨らませる余地が大きいため、いざイラスト化されるとネガティブな感想を抱かれやすい気がします。

反面、好きなキャラクターが自分の想像通りの形でイラスト化された時の喜びは大きいです。以前、片山愁さんによる『銀河鉄道の夜』の漫画化を見た時は、イメージとぴったりのカンパネラやジョバンニの姿に大興奮しました。それから先日読んだこの作品のイラストも、「これこれ!」と言いたくなるほどハマっていたと思います。中山七里さん『作家刑事毒島の嘲笑』です。

 

こんな人におすすめ

・皮肉の効いたミステリー短編集が読みたい人

・毒舌キャラが活躍する作品が好きな人

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「人面島」 中山七里

クローズド・サークルものの定番シチュエーションといえば、洋館、辺鄙な場所にある村、孤島の三つだと思います(すべて交通網・連絡ツールが遮断されていることが前提)。この三つの内、一番行き来するのに労力が要るのは、孤島ではないでしょうか。洋館や僻地の村の場合、死ぬ気で頑張れば自分の足で移動可能ですが、孤島の場合、どうにかして船等の移動手段を確保しなければなりません。となると、操縦は誰がするのか、エンジンは無事なのか等の問題が生じ、物語がよりスリリングなものになります。

孤島を舞台にしたミステリーと言えば、忘れちゃいけないのがアガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』。国内作品なら、綾辻行人さんの『十角館の殺人』、近藤史恵さんの『凍える島』、はやみねかおるさんの『消える総生島』etc、どれも夢中で読んだ記憶があります。それから、最近読んだこれも面白かったですよ。中山七里さん『人面島』です。

 

こんな人におすすめ

クローズド・サークルもののミステリーが読みたい人

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「嗤う淑女 二人」 中山七里

<クロスオーバー>という手法があります。これは異なる作品同士が一時的にストーリーを共有する手法のことで、主にアメリカンコミックの世界で発達したのだとか。映画化もされた『アベンジャーズシリーズ』で、アイアンマンやハルク等、違う作品のキャラクター達が共演して大活躍したことは、ご存知の方も多いと思います。

もちろん、小説分野でもクロスオーバー作品はたくさん存在します。その中で一つ挙げてみろと言われたら、中山七里さんの作品を出す方が多いのではないでしょうか。『静おばあちゃんと要介護探偵』では高円寺静と香月玄太郎が共闘し、『作家刑事毒島』には『刑事犬養隼人シリーズ』の登場人物が多数出てきます。それからこの作品でも、意外すぎるキャラ同士が共演しているんですよ。今回は、中山七里さん『嗤う淑女二人』を取り上げたいと思います。この作品の性質上、『連続殺人鬼カエル男シリーズ』のネタバレに触れざるを得ないので、未読の方はご注意ください。

 

こんな人におすすめ

最恐悪女の無双ぶりを読みたい人

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「境界線」 中山七里

フィクションの世界においては、しばしば、登場シーンはわずかにも関わらず存在感を発揮するキャラクターがいます。こういったキャラクターで私が真っ先に思いつくのは、西澤保彦さん『仔羊たちの聖夜』に登場する事件関係者の弟・英生さん(分かる方、います?)。出てくるのはたった数ページなものの、明晰な言動といい、<肉体的にも精神的にもぜい肉をそぎ落としたようなストイックな凄みがある>容姿といい、やたら印象的なんですよ。私はちょっと影のあるキャラに惹かれてしまいがちなので、「いつか別作品の主要登場人物になってくれないかな」と今でも思っています。

こうした脇役にスポットライトを当てる作風で有名なのは、当ブログでもお馴染みの中山七里さんです。『さよならドビュッシー』の序盤で死亡する香月玄太郎は『要介護探偵の事件簿』『静おばあちゃんと要介護探偵シリーズ』でメインキャラになっていますし、中山作品のあちこちでちらほら顔見せする総理大臣・真垣は『総理にされた男』の主役です。主役と脇役、立ち位置が変わることで視点も変わり、かつては分からなかった背景などを垣間見ることができてとても面白いですよね。この作品では、他作品では脇役だったある人物の意外な過去を知ることができました。中山七里さん『境界線』です。

 

こんな人におすすめ

・戸籍売買が絡んだ作品に興味がある人

・東日本大震災を扱ったヒューマンドラマが読みたい人

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「隣はシリアルキラー」 中山七里

<シリアルキラー>という言葉が使われ出したのは、一九八四年、捜査関係者がアメリカの連続殺人鬼テッド・バンディを指して言ったことが始まりだそうです。意味は、何らかの心理的欲求のもと、長期間に渡って殺人を繰り返す連続殺人犯のこと。<serial=続きの>という言葉が示す通り、複数の犠牲者を出すことがシリアルキラーの定義とされています。

シリアルキラーが小説に登場するパターンとして一番多いのは、<犯行を繰り返す殺人鬼vs犯人と戦う善人>ではないでしょうか。トマス・ハリスの『羊たちの沈黙』はこの典型的なケースですし、貴志祐介さんの『悪の教典』や宮部みゆきさんの『模倣犯』などもこれに当たります。今回取り上げる作品もそのパターン・・・と思っていたら、ちょっと予想外の展開を迎えました。中山七里さん『隣はシリアルキラー』です。

 

こんな人におすすめ

連続殺人が出てくるサスペンスミステリーが読みたい人

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「カインの傲慢」 中山七里

医療問題は総じてデリケートなものですが、中でも臓器移植問題の複雑さは群を抜いています。「虫歯になったら歯医者に行こう」とは言えても「病気になったら臓器移植を受けよう」とはなかなか言えるものではありません。理由は色々あるけれど、その中の一つは<臓器提供が行われる=提供者は体にメスを入れて臓器を摘出されている、場合によっては死んでいる>からではないでしょうか。病気や怪我なら仕方ないが、五体満足の体を開いて内臓を取り出すなんて不自然だ、親しい身内ならともかく他人のために手術なんて受けたくない、臓器移植を待つということはどこかの誰かが死ぬのを待つことではないか・・・そういったネガティブな考え方があるのが現実です。

しかし、どれだけ否定的な意見が出ようと、自分自身や大切な人が臓器移植を待つ身となれば、誰だって手術を望むでしょう。こうしたアンビバレントな状況から、臓器移植はフィクション界でも常に注目されるテーマです。私が初めて読んだ臓器移植に関する小説は、貫井徳郎さんの『転生』でした。どうしても重くなりがちな題材を、後味の良いラブストーリー&ミステリーに仕上げた良作でしたよ。では、最近読んだこの作品はどうでしょうか。中山七里さん『カインの傲慢』です。

 

こんな人におすすめ

臓器移植が絡んだミステリーが読みたい人

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