小池真理子

はいくる

「あなたに捧げる犯罪」 小池真理子

本好きとしては大変ありがたいことに、私が住む自治体は複数の図書館を運営してくれています。とはいえ、しょっちゅう行くのは徒歩圏内にある近所の図書館がメイン。行き来に時間がかからない分、本選びに時間をかけられるし、思い付きでふらっと行くことができてとても便利です。

その一方、時には普段利用する所とは違う図書館に行くのも楽しいものです。図書館によって蔵書が違うため、「あ、これずいぶん前に読んだ本だ!」「そう言えば、これってこの作家さんの著作だったんだな」等々、新鮮な面白さがあります。先日、所用で出かけた場所で普段利用しない図書館に立ち寄ったところ、昔読んで大好きだった本と再会しました。小池真理子さん『あなたに捧げる犯罪』です。

 

こんな人におすすめ

日常系イヤミスが好きな人

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「蠍のいる森」 小池真理子

創作の世界には、<群像劇>というストーリー手法があります。これは、特定の主人公を設けるのではなく、複数の主要登場人物がそれぞれ別の物語を紡ぎ、最終的に一つの結末に辿り着くスタイルのこと。グランドホテル形式、アンサンブル・キャストなどの呼び方をされることもあるようです。大ヒットを記録したラブコメディ映画『ラブ・アクチュアリー』形式のこと、と言えば、分かりやすいかもしれません。

勢いがあって視覚的に映えるからか、群像劇は映画やドラマで使われることが多いです。とはいえ、面白い群像劇小説もたくさんありますよ。恩田陸さんの『ドミノ』や辻村深月さんの『本日は大安なり』は、どちらもわざわざハードカバー版を買ったくらい好きな作品です。上記の二作品より登場人物数は少ないですが、これも上質な群像劇でした。小池真理子さん『蠍のいる森』です。

 

こんな人におすすめ

男女の愛憎が絡んだサイコサスペンスが読みたい人

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「ナルキッソスの鏡」 小池真理子

この世には数えきれないほどの主義・傾向がありますが、その中でも<ナルシズム>の認知度の高さは群を抜いていると思います。これはギリシャ神話に登場する美少年・ナルキッソスが、泉に映る自分の姿に恋したエピソードに由来し、自分自身を強く愛する精神状態と指すとのこと。あまりによく知られた用語なので、「あの人ってナルシストだよね」「今の言い方、ナスルシストっぽかったかな」等々、日常会話に登場する機会も多いです。

そして、<自分を強く愛する>という特徴が描写しやすいからか、ナルシストが登場する作品もたくさんあります。『ちびまる子ちゃん』の<花輪クン>のように、コミカルな自分大好き人間として描かれることが多い気がしますが、語源であるナルキッソスが自分を愛するあまり死を遂げたことを考えると、本来のナルシズムとはもっと真摯で頑ななもののように思います。今回ご紹介するのは、小池真理子さん『ナルキッソスの鏡』。あまりに深く自分を愛した者の運命が印象的でした。

 

こんな人におすすめ

人の狂気をテーマにしたサイコサスペンスが読みたい人

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「唐沢家の四本の百合」 小池真理子

「嫁姑の仲よきはもっけの不思議」などという言葉もあるように、嫁と姑というのは多かれ少なかれ揉めるものと思われがちです。赤の他人の同性同士が身内になるという状況のせいでしょうか。もちろん、嫁姑関係が円満にいっている家庭もたくさんあるんでしょうが、小説やドラマの中には、確執を抱えた嫁と姑が大勢登場します。

一方、舅となると、創作物に限って言えば意外なくらい存在感が薄いケースが多いです。嫁いびりをするどころか、台詞があるかないかよく分からないような場合も少なくありません。そんないまいち影の薄い舅にスポットライトを当てるため、今回は小池真理子さん『唐沢家の四本の百合』を取り上げたいと思います。

 

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家庭内サスペンス小説が読みたい人

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「懐かしい骨」 小池真理子

小説では、しばしば<パンドラの箱>という表現が登場します。元ネタは、ギリシア神話に登場する、ゼウスによってすべての悪と災いが詰め込まれた箱(本来は壺ですが)。人類最初の女性・パンドラがこの箱を開けてしまったことで、この世には様々な不幸が蔓延するようになります。このことから、<パンドラの箱>とは<暴いてはならない秘密><知りたくなかった真相>というような意味で使われることが多いですね。

パンドラの箱を開けてしまったことが導入となる物語はたくさんあります。特にミステリーやホラーといったジャンルに多いのではないでしょうか。この作品でも、封印されていたパンドラの箱が開いたことで、登場人物たちは混乱と不安のどん底に突き落とされます。小池真理子さん『懐かしい骨』です。

 

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記憶にまつわるミステリーが読みたい人

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「墓地を見おろす家」 小池真理子

四月も残りわずかです。この春に引っ越しを経験した人は、そろそろ片づけが一段落した頃合いでしょうか。今年は引っ越そうにも業者が予約できない<引っ越し難民>が続出したんだとか。不自由した方々が一日も早く落ち着き、快適な新生活を送れるよう願ってやみません。

新居での生活には期待と不安が付きまとうもの。素晴らしい家を得たならば、新生活はより良いものとなるでしょう。でも、もしその家がおぞましく恐ろしいものだったなら・・・?この作品に登場する一家は、そんな恐ろしい家に住んでしまいます。小池真理子さん『墓地を見おろす家』です。

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「間違われた女」 小池真理子

ストーカー。この言葉が日本で一般化したのは、二〇〇〇年前後からだと言われています。特定の相手を狙い、執拗につけ回し、心身に危害を加える。想像しただけで、身の毛がよだつような犯罪行為です。

ストーカーをテーマにした小説はたくさんありますが、国内のものでは、山本文緒さんの「恋愛中毒」、五十嵐貴久さんの「リカ」などが有名ですね。ですが、それより遥か以前、まだ「ストーカー」という言葉が定着していなかった頃に、ストーキングを題材にした作品が書かれていることをご存知でしょうか。得体の知れない相手につけ狙われる恐怖を味わえること間違いなし。直木賞受賞作家である、小池真理子さん「間違われた女」です。

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