加納朋子

はいくる

「螺旋階段のアリス」 加納朋子

世界各国には様々な童話があります。勧善懲悪のヒーロー話からおどろおどろしい怪異譚、くすりと笑えるほのぼのストーリーまで、その作風は千差万別。物語として面白いだけでなく、現代にも通じる教訓や風刺が込められているものも多く、大人になってから読んでも楽しめます。

そんな童話の中でも、『不思議の国のアリス』のシュールさは群を抜いていると思います。主人公・アリスが見た夢の話なだけあって、登場人物の背丈が伸びたり縮んだりするわ、動植物がいきなり喋るわ、道具が擬人化するわとやりたい放題。この奇妙さのせいか、『不思議の国のアリス』がゲームや小説のモチーフとして使われる場合、どことなく不気味で謎めいた作品になることが多いようですね。例を挙げると、小林泰三さんの『アリス殺し』や、当ブログでも取り上げた柴田よしきさん『紫のアリス』といったところでしょうか。もちろんそれはそれで面白いのですが、不気味なのは苦手という読者のため、今回はほっこりと希望のある作品をご紹介したいと思います。加納朋子さん『螺旋階段のアリス』です。

 

こんな人におすすめ

日常の謎を扱ったミステリー短編集が読みたい人

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「二百十番館にようこそ」 加納朋子

<ニート>の正式名称をご存知でしょうか。<Not in Education,Employment or Training>の略称で、勉強することも就労することも職業訓練を受けることもない者を指します。年齢は、一般的には十五歳から三十四歳までと定義されているとのこと。「五体満足な人間が、教育や勤労の義務も果たさずだらだらしているなんて」と、世間の厳しい目に晒されることが多い立場です。

ニートが小説の主要登場人物になる場合、いかにして彼(彼女)はニート生活に終止符を打つかがポイントになることが多いです。例を挙げると、里見蘭さんの『さよなら、ベイビー』や、過去にブログで取り上げた近藤史恵さんの『歌舞伎座の怪紳士』がそれに当たりますね。上記の作品の主人公達は、それぞれ思いがけない形で再出発の機会を掴み、一歩を踏み出します。では、この作品の主人公はどうでしょうか。加納朋子さん『二百十番館にようこそ』です。

 

こんな人におすすめ

ニートの再出発を描いたヒューマンドラマが読みたい人

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「レインレイン・ボウ」 加納朋子

先日、雨上がりに虹を見ました。大はしゃぎするような年齢はとっくに過ぎてしまいましたが、青空にかかる七色の帯を見ると、なんとなく気持ちが明るくなります。そう思う人は多いのか、虹を神との契約と捉えたり、虹の根本には宝があると考えたりする文化もあるようです。

そしてもう一つ、様々な色が並んでいる形状から、虹は<多様性><共存>の象徴でもあるとのこと。そのため、虹がキーワードとして出てくる作品は、異なる個性の登場人物達が支え合って物事を進める内容のものが多いですね。例を挙げるなら、逸木裕さんの『虹を待つ彼女』や瀧羽麻子さんの『虹にすわる』といったところでしょうか。そういえばこの作品でも、登場人物達を虹に例えています。加納朋子さん『レインレイン・ボウ』です。

 

こんな人におすすめ

悩める女性達の爽やかミステリーが読みたい人

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「いつかの岸辺に跳ねていく」 加納朋子

<超能力の例を一つ挙げてみなさい>と言われたら、どんな能力が出て来るでしょうか。口から言葉を発せずに意思を伝えるテレパシー、視界に入らないはずの出来事を見る透視能力、手を使わずに物を動かす念動力・・・どれもこれも有名な能力ですが、それらと並んで知名度が高いのが<予知能力>です。文字通り、その時点で起こっていない出来事を予め知る力のことで、かの有名なノストラダムスもこの能力の持ち主として知られています。

下手するとチート状態になりかねない能力のせいか、漫画や映像作品と比べると、小説の予知能力者の登場率はさほど高くありません。それでも、宮部みゆきさんの『鳩笛草』収録作品である「朽ちてゆくまで」や筒井康隆さんの『七瀬ふたたび』では、予知能力者の悲哀や葛藤が丁寧に描かれていました。今回ご紹介する作品は、加納朋子さん『いつかの岸辺に跳ねていく』。切なく、やるせなく、それでいて優しい予知能力者の物語です。

 

こんな人におすすめ

予知能力が登場するヒューマンストーリーが読みたい人

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「カーテンコール!」 加納朋子

昔、偶然ですが、某有名劇団の通算1000回公演に行ったことがあります。本編終了後、再び幕が上がってキャストが観客席に飛び降りてきたり、主演俳優が謝辞を述べたり・・・まったく予想していなかった分、すごく嬉しかったです。これほどの記念公演でなくとも、劇本編とは別に出演者や演出家が出てきてくれたりすると、何となく楽しくなっちゃいますね。

幕が下りただけで終わるのではなく、その後にさらなる喜びや感動をもたらしてくれるもの、それがカーテンコールです。人生にもカーテンコールがあると思えば、何かとままならない世の中も少しは生きやすくなるのではないでしょうか。そんな人生のカーテンコールを扱った作品がこれ、加納朋子さん『カーテンコール!』です。

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「ぐるぐる猿と歌う鳥」 加納朋子

「ごあいさつ」欄にも書いてある通り、私は九州出身で、人生の大半を九州で過ごしてきました。海もあれば山もあり、ラーメンと明太子以外にも美味しい食べ物が色々あり、よその土地への移動もしやすい。身びいきかもしれませんが、いいところがたくさんある土地ですよ。

自分の故郷だからということもあるでしょうが、九州を舞台にした作品を見かけると、ついつい手が伸びてしまいます。重厚な歴史もの、どろどろしたイヤミス、胸がきゅんとするようなラブストーリーなど様々な作品がありますが、ハートウォーミングな成長物語が読みたい時はこれ。加納朋子さん『ぐるぐる猿と歌う鳥』がおすすめです。

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「我ら荒野の七重奏」 加納朋子

学生時代、何か部活動をやっていましたか?私の場合、部活参加が半ば義務だった中学校ではパソコン部でしたが、高校では三年間通して帰宅部部員。当時は特に何も思わなかったものの、今になって振り返ると、何かやっておけば良かったかもと思います。

そんな私は知りませんでしたが、十代の部活動って、親の役割がすごく大きいんですね。時には子どもとは無関係な部分で、親がシャカリキにならなければならない場面もあるんだとか・・・今日は、そんな部活にまつわる保護者の奮闘記をご紹介します。当ブログでも紹介した『七人の敵がいる』の続編、加納朋子さん『我ら荒野の七重奏』です。

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「七人の敵がいる」 加納朋子

よく「子育ては戦場だ」と言われます。そう言われて想像するのはどんな場面でしょうか?子どもの夜泣き?トイレトレーニング?公園デビュー?もちろん、それだって大変なことだと思います。

でも、親業の大変さは、夜泣きやトイレトレーニングが一段落ついた後も続くものですよね。親の果てしなき奮闘ぶりを描いた作品と言えばこれ。ハートフルな作品を書かせたら天下一品、加納朋子さん「七人の敵がいる」です。

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