恩田陸

はいくる

「訪問者」 恩田陸

怪文書、犯行予告、警告状・・・ミステリーやサスペンスでは、しばしばこうした小道具が登場します。その内容は、ストレートに犯罪を予告するものから、謎解きをしないと意味が分からないものまで千差万別。登場人物達を怯えさせ、緊迫感を盛り上げるのにぴったりのアイテムです。

ただ、<わざわざ事前に文書を送りつけ、関係者の警戒心を高める>という性質上、リアリティ重視の社会派ミステリーなどで警告状等が登場する機会は少ない気がします。登場率が高いのは、探偵が活躍する本格・新本格ミステリーではないでしょうか。今回取り上げる作品でも、警告状が味のある使われ方をしています。恩田陸さん『訪問者』です。

 

こんな人におすすめ

クローズドサークルのミステリーが好きな人

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「黒と茶の幻想」 恩田陸

小説の楽しみ方は、パズルを解くのとは違います。明確な答えがあるわけではないので、同じ物語に対し、いつ何時でも同じ感想を抱くとは限りません。子どもの頃に読んだ本を大人になって再読してみたら、まったく別の解釈が生まれることもあり得ます。

世代によって解釈が分かれる作品として、よく挙がるのがジブリアニメの『火垂るの墓』。子ども目線で見ると、主人公兄妹の叔母は冷酷な酷い人なのですが、大人になって鑑賞すると、「あの大変な時代に、働かない子ども二人が居候していたら、そりゃ冷たい態度にもなるよなぁ」と、叔母の心情が分かってしまうのです。先日再読したこの本も、二十年以上前に初読みした時とはまた違う印象を受け、新鮮な驚きがありました。恩田陸さんの『黒と茶の幻想』です。

 

こんな人におすすめ

長編旅情ミステリーが読みたい人

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「なんとかしなくちゃ。青雲編」 恩田陸

とある人物の生涯について書いた本を<一代記>といいます。主人公は実在の人物のこともあれば架空の人物のこともありますが、どちらにせよ社会を大きく動かす出来事に関わったり、歴史上の人物に出会ったりと、波乱万丈な人生を送ることが多いです。最近の作品では、森絵都さんの『みかづき』や柚木麻子さんの『らんたん』などが挙がるでしょう。

しかし、人間、歴史上のビッグイベントに関わる機会がそうそうあるわけではありません。全体的な比率でいえば、波乱万丈とは程遠い、平々凡々な人生を送る人の方がきっと多いはずです。そんな人間の人生を描いた小説はつまらないでしょうか。それがそうとも言い切れないと、この作品が証明してくれました。恩田陸さん『なんとかしなくちゃ。青雲編』です。

 

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問題解決に邁進する女性の一代記が読みたい人

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「不安な童話」 恩田陸

私が子どもの頃、前世をテーマにした漫画やアニメが人気でした。その流れで、「自分の前世は何だったのだろう」と考えたことも一度や二度ではありません。外国人だったり、特殊な能力を持っていたり、異世界の住人だったり・・・今では<中二病>と呼ばれてしまうのでしょうが、あれこれ空想を巡らすのは楽しかったです。

しかし、よくよく考えてみれば、仮に前世が存在したとしても、楽しいものとは限らないですよね。ウィルスやアメーバだったかもしれないし、奴隷として悲惨な最期を遂げたかもしれないし、憎悪と軽蔑を一身に受ける極悪人だったかもしれない。そんな前世、思い出さない方が間違いなく心穏やかなはずです。今回ご紹介する作品には、厄介な前世問題と関わってしまった主人公が登場します。恩田陸さん『不安な童話』です。

 

こんな人におすすめ

前世が絡んだサイコミステリーが読みたい人

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「上と外」 恩田陸

結構な映画好きを自負している私が一番初めにハマったジャンル、それはアドベンチャーです。例を挙げるなら『インディ・ジョーンズシリーズ』や『ハムナプトラシリーズ』などですね。この手の作品はストーリーやキャラクター設定が分かりやすく、最後には善が悪を倒してスッキリ解決!という流れが多いので、安心して楽しむことができました。

ただ、映像作品ではなく小説、それも現代の日本人を主人公としたものとなると、数が限られてきます。手に汗握るハラハラシーンは画面映えしますし、今を生きる日本人が冒険に出かける機会は多いとは言い難いせいでしょうか。現に、田中芳樹さんの『アップフェルラント物語』は二十世紀初頭のヨーロッパの小国が舞台ですし、宮部みゆきさんの『ブレイブ・ストーリー』は日本人の少年が異世界で大冒険を繰り広げます。なので、今日ご紹介する作品は、なかなか貴重な設定と言えるかもしれません。恩田陸さん『上と外』です。

 

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少年少女の冒険物語が読みたい人

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「麦の海に沈む果実」 恩田陸

ひと頃、学園ものにハマっていた時期がありました。成長過程にある少年少女の人間模様とか、学校特有の閉塞感とか、子どもであるが故の残酷さとか、もう大・大・大好物。小学生や大学生メインでも面白い作品はたくさんありましたが、一番読み漁ったのは中学生・高校生が主役になる小説です。この世代の、子ども一辺倒ではないけれど大人にもなりきれていないアンバランスさが、物語を盛り上げるのに一役買っていた気がします。

ティーンエイジャー主役の小説は、今までブログ内で何冊も取り上げてきました。瀬尾まいこさんの『そして、バトンは渡された』、中山七里さんの『TAS 特別師弟捜査員』、柚木麻子さんの『王妃の帰還』などがそれに当たります。これらは、現代の日本に住む普通の(?)の少年少女が主人公でしたので、今日は少し趣を変え、ファンタジーの香りが漂う小説をご紹介したいと思います。恩田陸さん『麦の海に沈む果実』。思えば私が学園ものにハマってきっかけは、この本だった気がするな。

 

こんな人におすすめ

学園を舞台にしたダークミステリーが読みたい人

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「象と耳鳴り」 恩田陸

人気のある小説や漫画、アニメ作品には、しばしば<スピンオフ>なるものが存在します。和訳すると<派生作品>のことで、本編で人気のあった脇役が主役になるというパターンが多いですね。<続編>ではないので本編より過去の出来事が分かったり、本編では触れられなかったキャラクターの背景が判明したりする楽しみがあります。

すでに世界観が出来上がっているためストーリーが作りやすく、本編ファンの注目も集まるというメリットのせいか、ありとあらゆる創作物でスピンオフは作られています。小説に限定すると、柴田よしきさんの『麻生龍太郎シリーズ』、宮部みゆきさんの『楽園』、米澤穂信さんの『ベルーフシリーズ』などが印象的でした。今回ご紹介するのも、私の中で五本の指に入るくらい好きなスピンオフ作品です。恩田陸さん『象と耳鳴り』です。

 

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本格推理短編集が読みたい人

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「蛇行する川のほとり」 恩田陸

すべての生命は水の中から生まれたそうです。また、私達人間の体は半分以上が水でできています。だからでしょうか。水という存在は、私たちに懐かしさや安らぎ、切なさをもたらします。

そのせいか、水辺が舞台となった小説は多いです。ロバート・ルイス・スティーヴンソンの『宝島』、ハーマン・メルヴィルの『白鯨』などは世界的に有名ですし、ここ最近の作品だと近藤史恵さんの『昨日の海は』、坂木司さんの『大きな音が聞こえるか』などが面白かったです。比較的<海>を扱った作品の方が多い気がするので、今回はあえて場所を変え、<川>が出てくる小説を取り上げたいと思います。恩田陸さん『蛇行する川のほとり』です。

 

こんな人におすすめ

少年少女が出てくる青春ミステリーが読みたい人

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「私の家では何も起こらない」 恩田陸

他のジャンルがそうであるように、ホラーという分野にも「ブーム」が存在します。ここ最近ヒットしたホラー作品を見る限り、今は「一番怖いのは人間だよ」ブーム。人間の欲望や狂気が引き起こす恐怖は、現実にも起こりそうな臨場感があって怖いですよね。

ですが、人外の存在が巻き起こす意味不明な恐怖もまた恐ろしいです。この世の常識が通用せず、ただ「関わってしまったから」という理由で怪異に見舞われる登場人物たち。この手の作風は三津田信三さんがお得意ですが、この方の小説もかなりのものでした。今回取り上げるのは恩田陸さん『私の家では何も起こらない』。王道をいく幽霊譚が楽しめますよ。

 

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スタンダードな幽霊屋敷小説を読みたい人

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「蜜蜂と遠雷」 恩田陸

インドア派の趣味の代表格と言えば、「読書」「映画鑑賞」「音楽鑑賞」といったところでしょうか。その内、前の二つは私も大好きですが、「音楽鑑賞」は今一つ馴染みがありません。ドラマや映画の主題歌になった人気曲や、音楽の教科書に載るような有名クラシックをいくつか知っているくらいです。

とはいえ、音楽が嫌いなわけではないですし、音楽をテーマにした小説も大好きです。中山七里さんの『岬洋介シリーズ』や森絵都さんの『アーモンド入りチョコレートのワルツ』などは図書館で何度も借りましたし、毛利恒之さんの『月光の夏』に至っては感動のあまり即座に映画版のビデオをレンタルしたほどです。そして、音楽小説の名作といえば、これを外すことはできないでしょう。恩田陸さん『蜜蜂と遠雷』です。

 

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ピアノをテーマにした小説が読みたい人

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