秋吉理香子

はいくる

「無人島ロワイヤル」 秋吉理香子

明けましておめでとうございます。今年もこうしてブログを続けながら新年を迎えることができ、とても嬉しく思います。ニュースで繰り返し取り上げられていましたが、二〇二三年の<今年の漢字>は<税>、得票数二位は<暑>、三位は<戦>だったとのこと。楽しいことより辛いことの方が目につきやすいのが人の世の常とはいえ、穏やかさや安らぎとは程遠い言葉が上位にランクインされているのは、なんとなく寂しい話です。こういう時こそより良い読書ライフを送り、心を豊かにしていきたいものですね。

振り返ってみると、二〇二三年の新年第一発目のレビュー作品は宮部みゆきさんの『おそろし~三島屋変調百物語』、二〇二二年は長江俊和さんの『出版禁止 いやしの村滞在記』、二〇二一年は芦沢央さんの『汚れた手をそこで拭かない』でした。たまたまですが、胸にズンと響くホラーやイヤミス寄りの作品ばかりだったようです。今年はちょっと趣を変え、後味すっきりで読むことのできる口当たりのいい作品を取り上げようと思います。秋吉理香子さん『無人島ロワイヤル』です。

 

こんな人におすすめ

デスゲーム物が好きな人

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「息子のボーイフレンド」 秋吉理香子

LGBT問題は、もはや単語を見聞きしない日はないと言っても過言ではないくらい、社会全体で一般的なテーマとなりました。簡単に説明しておくと、LGBTとはレズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーの四つの単語の頭文字を組み合わせた表現です。日本におけるパートナーシップ制度のように、彼らの権利を保護する制度・法律もできている一方、悲しいかな、理不尽な差別の対象となることも少なくありません。

ただ、人種差別や性差別といった差別問題と、LGBTに対する差別とでは、一つ、大きな違いがあると思います。それは<本人が隠そうと思えば隠すことも不可能ではない>ということ。実際、LGBTの方々が、様々な事情から自身の性的指向・性自認を隠して生活するケースも多いと聞いたことがあります。自分を偽らず、正直に伸び伸びと生きるのが一番。そう分かってはいても、それを実行するのが難しいのが現実というものなのでしょう。この作品を読んで、本当の自分を受け入れることの意味について考えさせられました。秋吉理香子さん『息子のボーイフレンド』です。

 

こんな人におすすめ

LGBT問題をユーモラスに描いた家族小説が読みたい人

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「終活中毒」 秋吉理香子

コロナ禍が起こったせいもあるでしょうか。周囲で<終活>という言葉を聞く機会が増えました。ただ言葉を聞くだけでなく、実際に終活を始めたという経験談を耳にすることもしばしばです。意外に、まだ寿命のことなど心配する必要がなさそうな世代の人が終活を始めるケースも多いようですね。もっとも、この世のありとあらゆる事象の内、<死>は思い通りにならないものの筆頭格。体力も気力も十分ある内に準備しておく方が合理的なのかもしれません。

人生を終わらせるための準備ということもあり、終活をテーマにした小説は、どうしても重くしんみりした雰囲気になりがちです。もちろん、それはそれでとても面白いのですが、「終活には興味あるけど、今日はさらりと軽く読書したいな」という気分の時もあるでしょう。そんな時は、これ。秋吉理香子さん『終活中毒』です。

 

こんな人におすすめ

終活をテーマにした短編集が読みたい人

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「灼熱」 秋吉理香子

サスペンス、ホラー、ハードボイルドなどの創作物の場合、<なぜそういう状況になったのか>という設定作りが重要です。登場人物たちは日常とはかけ離れた世界に身を投じるわけですから、あまりにぶっ飛んだシチュエーションだと、読者が感情移入できません。例えばパニックアクション作品で<大災害>という設定を持ってくると、「確かに、こういう非常事態が起こったら、人間はこういう行動を取るかもな」と想像しやすいわけです。

こうした設定の王道パターンとして<復讐>があります。自分自身や大事な相手が傷つけられ、その復讐のため過酷な世界に身を投じる主人公。こういう状況は読者の同情を集め、主人公が道に外れた行いをしても「あれだけのことをされたんだから、気持ちは分かる」と共感されます。『巌窟王』や『嵐が丘』が今なお世界的名作として読み継がれているのは、そんな理由があるからかもしれません。最近読んだ小説も、一人の女性の悲しい復讐劇でした。秋吉理香子さん『灼熱』です。

 

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愛憎絡んだサスペンス小説が読みたい人

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「ガラスの殺意」 秋吉理香子

人生を築き上げていく上で、大事なものはたくさんあります。愛情が最も大事だという人もいれば、お金こそ一番と感じる人もいるでしょう。そんな中、つい忘れられがちですが、<記憶>もまた生きていく上で大切な要素です。日々の記憶を積み重ねることで人生は成り立つもの。もしその記憶を保つことができなければ、人生はどれほど辛く寂しいものになるでしょうか。

<記憶喪失>ではなく<記憶を保持できない>登場人物が出てくる物語となると、愛川晶さんの『ヘルたんシリーズ』、小川洋子さんの『博士の愛した数式』、西尾維新さんの『忘却探偵シリーズ』などが思い浮かびます。最近読んだ小説にも、記憶を保てないことに悩み苦しむヒロインが登場しました。秋吉理香子さん『ガラスの殺意』です。

 

こんな人におすすめ

記憶障害をテーマにした小説が読みたい人

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「鏡じかけの夢」 秋吉理香子

古今東西、「鏡」は神秘的なアイテムとして扱われてきました。人や物をそっくりそのまま(正確には逆転した姿ですが)映し出したり、使い方次第で無限に続く空間ができたように見えたりするせいでしょうね。日本でも、邪馬台国の女王・卑弥呼が魏から銅鏡を贈られていますし、鏡を奉っている神社も存在します。

ミステリアスな特性のせいか、鏡がキーワードとなる小説は、どこか謎めいたものが多いです。古くは『白雪姫』『鏡の国のアリス』がありますし、梨木香歩さんの『裏庭』、田中芳樹さんの『窓辺には夜の歌』、坂東眞砂子さんの『蛇鏡』などにも不思議な鏡が登場しました。そして、今回ご紹介する秋吉理香子さん『鏡じかけの夢』。この鏡の不思議さもなかなかのものですよ。

 

こんな人におすすめ

愛憎絡み合うホラー短編集が読みたい人

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「ジゼル」 秋吉理香子

幼稚園の頃、バレエを習っていたことがあります。きっかけは曖昧ですが、たぶん、綺麗な衣装に憧れたとか何とかいう理由でしょう。残念なことに長続きしませんでしたが、間近で見たチュチュやジョーゼットが素敵だったことは今でも覚えています。

その優雅な美しさで人々を魅了するバレエ。しかし、人間が行うものである以上、優雅なばかりではいられません。見えない所で必死に足を動かす白鳥のように、バレエ界には水面下での熾烈な戦いや争い、感情のぶつかり合いが満ちています。最近読んだ小説により、そのことがよく分かりました。秋吉理香子さん『ジゼル』です。

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「婚活中毒」 秋吉理香子

人はなぜ結婚したいと思うのでしょうか。子どもが欲しいから?社会的な信用を得たいから?一人でいるのは孤独だから?理由は様々でしょうが、突き詰めればすべて「幸せになりたいから」に繋がると思います。

しかし、幸せと不幸せは表裏一体。幸福を得るために取った行動のせいで、思わぬ泥沼にはまってしまうことだってありえます。今回取り上げるのは、婚活の予想外の落とし穴を描いたミステリー、秋吉理香子さん『婚活中毒』です。

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「機長、事件です! 空飛ぶ探偵の謎解きフライト」 秋吉理香子

私は子どもの頃、夏休みや冬休みになると、飛行機で祖父母の家に遊びに行っていました。お祖父ちゃんやお祖母ちゃんと遊ぶのはもちろん楽しみでしたが、それと同じくらい、飛行機に乗ることも嬉しくて仕方なかったものです。電車やバスのように毎日乗れる乗り物とは違って、飛行機には何となく特別な雰囲気を感じていたんだと思います。

海を越えた土地同士を繋ぎ、ひとたび離陸すれば巨大な密室と化す飛行機。ミステリーの設定として、これほど魅力的なものはそうないのではないでしょうか。今回ご紹介するのは秋吉理香子さん『機長、事件です! 空飛ぶ探偵の謎解きフライト』。空の旅を味わっている気分に浸れますよ。

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「サイレンス」 秋吉理香子

里帰り。この言葉を聞いて、どんなイメージが思い浮かぶでしょうか。久しぶりに会う家族との和気藹藹としたひと時?離れていた土地で過ごす気づまりな時間?私は今、生まれ育った地方で暮らしていますが、一時は遠方の地で働いていたことがあります。たまの休みに里帰りし、家族や幼馴染と過ごす時間は楽しいものでした。

考えてみれば、里帰りを心から楽しいと思えるのは幸せなことですよね。重苦しい気持ちを抱え、嫌々ながら帰郷するケースだってたくさんあると思います。ただ単に嫌なだけならまだしも、中には故郷で思いがけない恐怖が待ち受けていることだってあるのかも・・・・・今回取り上げるのは、そんな里帰りを扱った作品、秋吉理香子さん『サイレンス』です。

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