はいくる

「雨利終活写真館」 芦沢央

数年前から「終活」という言葉をよく見聞きするようになりました。文字通り「人生の終わりのための活動」のことで、葬儀や財産分与に関する準備をしておいたり、身の回りのものを片付けておいたりするようですね。少子高齢化が進む現代社会においては、とても重要な意味を持つ活動だと思います。

終活をテーマにしたフィクション作品といえば、ジャック・ニコルソンとモーガンフリーマンが出演した『最高の人生の見つけ方』、アカデミー賞で外国語映画賞を受賞した『おくりびと』、伊丹十三の監督デビュー作である『お葬式』など、映画が多い気がします。小説ではないのかな・・・と思っていたら、面白いものを見つけました。芦沢央さん『雨利終活写真館』です。

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失恋の痛手から立ち直れない元美容師・ハナは、ひょんなことから遺影専門の写真館「雨利写真館」でスタイリストとして働くことになる。無愛想だがピカイチの腕を持つカメラマンの雨利、商売上手で金にうるさいコーディネーターの夢子、胡散臭い関西弁を話すアシスタントの道頓堀らと共に出会う、遺影に関する謎の数々。死を迎えるための写真から、その人の生き様が色鮮やかに浮かび上がる。優しく、温かく、ちょっぴり切ない、心洗われる終活ミステリー短編集。

 

芦沢央さんといえば、映画化もされた『罪の余白』のようなイヤミスのイメージを抱いていました。あちらを黒・芦沢とするなら、本作は心温まる白・芦沢。全部で四話から成る短編集なので、一話ずつ簡単なあらすじと感想を書いていきますね。

 

「一つ目の遺言状」・・・生前、雨利写真館で遺影を撮っていたハナの祖母。祖母の死後に公開された遺言には、ハナの母の名前がなかった。財産より、親から何一つ気にかけてもらえなかったことを嘆く母だが・・・・・

泥沼の愛憎劇が起こりそうな設定ですが、クイズ好きで粋なお祖母ちゃんの性格のせいか、陰鬱なムードはありません。作中のクイズもしっかりしたもので、答えが出た時は「なるほど!」と膝を打ってしまいました。

 

「十二年目の家族写真」・・・母親の転落死を目撃しつつ助けようとしなかった少年。わだかまりを抱えたまま十二年の時が流れ、「祖父の終活のため」という名目で祖父・父・息子という三世代の男たちが写真館に集まるが・・・・・

私が一番好きだったのがこれ。過去の出来事のせいで溝ができた三人のすれ違いが哀しく、どう決着がつくのかヤキモキしながら読みました。清々しいラストが好印象です。

 

「三つ目の遺品」・・・二十数年前、男性と妊娠中の女性を撮ったツーショット写真。夫婦と思われた二人だが、女性の娘によると、この男性は父親ではない。まさか不倫相手との記念写真?亡母の秘密を知り、困惑する娘が知った真実とは。

これは何と言っても伏線の張り巡らし方が秀逸!この写真にまつわる要素の全部が伏線なので、どうぞ目を凝らして読んで下さい。真相の切なさには目頭が熱くなりますが、夢子の「がめつい」というキャラクターのせいで、クスリと笑えるオチを迎えます。

 

「二枚目の遺影」・・・末期癌を患う男性から受けた遺影撮影の依頼。なぜか男性は、日を分けて二人の女性と写真撮影を行った。二人の女性のうち、片方が妻で片方が愛人なのか。既婚者に騙された経験のあるハナは苦悩するが・・・

ミステリーとしてはオーソドックスであり、真相は割と簡単に分かると思います。ですが、その過程で描かれるハナの葛藤が何とも苦しく切実。そんな彼女にかけられる、無口でぶっきらぼうな雨利の言葉が温かいです。

 

「遺影」がキーワードである以上、背景には人の死があり、どの話も切なさや悲しみを含んでいます。とはいえ後味の悪さは全くなく、逆に人と寄り添えることの大切さを噛みしめられると思いますよ。タイトルが『雨利終活写真館』でありながら、肝心の雨利に謎めいた部分が多いので、第二弾が出るのを期待しています。

 

人は死んでも想いは残る度★★★★☆

人生の幕引きについて考えておこう度★★★★★

 

こんな人におすすめ

・終活というテーマに興味がある人

・ほのぼのした読後感の良いミステリーが読みたい人

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コメント

  1. しんくん より:

    辻村深月さんの後輩らしい若手のイヤミス作家~と言うイメージでしたが、下町人情も入ったヒューマンミステリーを感じる作品でした。
    レンズを通して語る人生ドラマが良かったです。

    1. ライオンまる より:

      そうそう、芦沢央さんといえばイヤミスを連想しますよね。
      でも、こういう白・芦沢もなかなか良いと思います。
      キャラクターも面白いし、シリーズ化してほしいものです。

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