はいくる

「赤いべべ着せよ・・・」 今邑彩

ミステリーの世界には「童謡殺人」という言葉があります。その名の通り、童謡の歌詞やメロディをキーワードとして殺人が行われるもののことですね。ミステリー小説としては世界で一、二を争うくらい有名なアガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』、横溝正史の『悪魔の手毬歌』など、例として挙げられる作品はたくさんあります。

あまりにたくさんありすぎて、どれから紹介していいか迷う「童謡殺人」。今回は、狂気に駆られていく人間の醜態が印象的な作品を取り上げたいと思います。今邑彩さんの初期の名作『赤いべべ着せよ・・・』です。

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夫の急死後、娘を連れて二十年ぶりに故郷に帰ってきたヒロイン・千鶴。幼馴染たちとの再会を喜んだのも束の間、町では子どもを狙った殺人事件が相次ぐようになる。無残に殺されていく幼馴染たちの子ども、被害者に不気味なわらべ歌を聞かせる電話、町に伝わる鬼女伝説・・・・・これは二十二年前の幼児殺人事件の再現なのか。たった一人で娘を守ろうとする千鶴が見た、「鬼」の驚くべき正体とは。

 

「田舎町に伝わる不気味な伝説とわらべ歌」「過去に起きた悲惨な殺人事件」「コミュニティ内で疎まれる不審な住民」などなど、この手のホラーミステリーの王道パターンを押さえた本作。登場人物も良い意味で分かりやすく、良質なサスペンスドラマを見ているような気分になりました。今邑彩さんの著作はドラマ・映画化されているものも多いので、この作品もいつか映像化されないかなと期待しています。

 

ヒロインの千鶴は、夫の死をきっかけに帰郷し、一人娘とともに親戚の家に身を寄せたシングルマザー。親戚にとっては居候であり、肩身の狭い思いをしています。そんな彼女に追いうちをかけるように幼馴染の子どもたちが次々殺されていくのですが、そのやり口は二十二年前に町で起きた幼児殺人事件を彷彿とさせるものでした。実は千鶴と幼馴染たちは、二十二年前に殺された幼児と事件発生直前まで遊んであげていたことで、遺族から逆恨みされていたのです。しかも、幼児と遊んであげようと言い出したのは千鶴。このことが、幼馴染と千鶴の間に亀裂を生みます。

 

私が一番怖いと思ったポイントはここ。子どもが殺されるという展開はもちろん惨いのですが、そのことによって正気を失い、疑心暗鬼に駆られ、互いに責任転嫁し合う大人たちが怖いこと怖いこと。長く町を離れていたヒロインが次第に疫病神のように扱われていく描写は生々しく、読んでいて辛かったです。ヒロインの娘がまた、決して悪い子ではないものの扱いにくく、「こりゃ田舎じゃ浮くよなぁ」というタイプなので、母娘は余計に孤立していくのです。終盤の手に汗握る展開、衝撃的なラストなど読み所はたくさんあるのですが、それより何より、絶望にとらわれた人間の狂気を味わってほしい作品です。

 

余談ですが『赤いべべ着せよ・・・』というのは文庫版のタイトルで、ノベルス版は『「通りゃんせ」殺人事件』となっています。初期の作品ということもあり書店では手に入りにくい上、タイトルの違いのせいで注文がうまくいかなかったという声もあるようですね。ネット通販、図書館でのリクエストなどで読もうとする場合はお気を付けください。

 

エピローグを読み流しちゃダメ度★★★★★

すべての元凶はお前かい度★★★★☆

 

こんな人におすすめ

後味の悪いホラーミステリーが好きな人

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コメント

  1. しんくん より:

    読んでいるだけで怖くなりますが強烈に読みたくなりました。
    湊かなえさんの「贖罪」、中山七里さんの「連続殺人鬼カエル男」「ハーメルンの誘拐魔」を思い出しました。
    童謡殺人~怪談をモチーフにしたホラーミステリーと人間の狂気~かなり波乱な展開の印象です。

    1. ライオンまる より:

      こういうホラー風味のミステリーって大好きなんです。
      「過去の因果が巡ってくる」という意味では、湊かなえさんの「贖罪」に近いかもしれません。
      そこに、田舎での閉鎖性などがプラスされ、よりおどろおどろしい雰囲気になっています。

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